ゲーム開発においてしばしば語られるのが、「作りたいゲームを作るべきか」それとも「売れるゲームを作るべきか」という対立です。
しかし実際には、この二つは敵対するものではなく、異なる出発点をもつ創作の軸です。 それぞれの特徴を理解したうえで、「徹底模倣」と「基礎理解」という二つのアプローチを組み合わせることで、両立が可能する…というのがこの記事の趣旨となります。
1. 「作りたいゲーム」と「売れるゲーム」はなぜ対立するのか
■ 作りたいゲームを作る派
- 強み: モチベーションが続く/独創性・熱量・個性を発揮できる
- 背景: 自己表現・理想の実現・情熱が中心
- 弱点: 市場とのズレが生じやすく、完成までに時間がかかるリスクがある
■ 売れるゲームを作る派
- 強み: 現実的で継続可能/安定した収益・開発環境を得やすい
- 背景: 市場理解・需要重視・現実主義
- 弱点: 個性が失われやすく、作業的になってモチベーションを失う恐れがある
この二つの考え方は、一方が「内面の表現」、もう一方が「外界への適応」を重視していることで対立しているように見えます。 ですが、どちらも「良いゲームを作り続けたい」という目的自体は同じであるため、アプローチによっては両立することが可能です。
2. 両立の鍵:「徹底模倣」と「基礎理解」
「作りたいゲーム」と「売れるゲーム」をつなぐためには、"模倣を通して構造を掴み、理解を通して独自性を再構築する” ことが重要、と考えています。 ここで役立つのが「徹底模倣」と「基礎理解」という二つのアプローチです。
2-1. 「徹底模倣」:結果から本質に近づくアプローチ
「徹底模倣」とは、成功しているゲームを構造レベルで再現しながら本質を掴む方法です。 これは単なる「見た目」や「ジャンル」のコピーではなく、 “なぜその設計がプレイヤーを惹きつけるのか” を分析・再構築することです。
- 目的: 成功事例の背後にある構造(ゲームループ・レベルや報酬の曲線)を理解する
- 効果: “面白い / とっつきやすさ” の理由を実体験的に学べる
- 「作りたいゲーム」では、参考タイトルの本質を損なわずに独自要素を加える
- 「売れるゲーム」では、人気要素をコピーするのではなく「なぜそれが機能するか」を理解して再設計する
ここで挙げている模倣は「パクリ」「真似」ではなく「対象を観察することによる研究」を意味します。 成功した“ 結果” を通して、ゲームデザインの “因果” を掴む訓練を行います。
2-2. 「基礎理解」:原理から再構築するアプローチ
もう一つの方法である「基礎理解」とは、ゲームの面白さを原理・心理・構造から捉えるアプローチです。 つまり「なぜそれが面白いのか」の原理・原則を理論として説明できるようになることです。
- 目的: ユーザー体験 (楽しい) の設計・プレイヤー心理・報酬を理論的に理解する
- 効果: 「作りたい」感情を再現できる設計力を得る
- 例えば、スイカゲームを参考にするなら、物理演算によるランダム性・リスクとカタルシスの関係を分析する
- さらにそのジャンルの進化史を遡り、どんな取捨選択の上に現在の形があるのかを理解する
理解は「構造の抽象化」です。ゲームを構成する要素を徹底的に分解します。そしてその要素同士が別の要素とどのような関連性を持っているかを考えることです。 ゲームが持つ要素を足し算・引き算するだけではうまく行かないのは「要素同士」が持つ関連性を無視して、気に入らないというだけで要素を引き算してそのゲームの本質となる面白さが失われたり、なんとなく面白いと思った要素を足し算して回りくどく冗長なゲームメカニクスにして台無しにしてしまうことです。
そういった間違いをしないためにも、基礎要素の機能を理解して、感情的な “面白さ” を “再現可能な設計原理” へ変換できるようになるのが、ここで述べている「基礎理解」です。
3. 「徹底模倣」と「基礎理解」の関係
両者は真逆のようでいて、学びの入口と出口の関係にあります。
| 観点 | 徹底模倣 | 基礎理解 |
|---|---|---|
| 出発点 | 結果(成功例) | 原理(なぜ面白いか) |
| 学び方 | 体験・再現・分析 | 抽象化・理論化・再構築 |
| 得られる力 | 実感的な市場感覚 | 設計的な再現力・独自性 |
| 落とし穴 | 独創性を失う | 理論偏重で面白さが薄れる |
そのため、この2つの概念の理想的な関係は、“徹底模倣”で素材を集め、“基礎理解”で自分の言葉に翻訳することです。 模倣は「売れる構造」を学び、理解は「作りたい感情」を理屈で支える。 2つを往復することで、“自分が作りたいものを、売れる形で表現できるようになる…というのがベストな運用です。
4. 実践モデル:「模倣 → 理解 → 再構築」
結局ここまでの話は、単なる論理に過ぎません。 ではこの方法を実際に運用するためにはどうするのか。個人的には以下の手順で実践していくことをおすすめします。
- 模倣段階: 成功ゲームを分解・再現して“売れる構造”を掴む
- 理解段階: その構造の原理(面白さ・快感のメカニズム)を理論化
- 再構築段階: 理解した原理を自分の「作りたい」テーマに落とし込む
- 検証段階: 市場・ユーザーの視点から調整して磨く
まずは「模倣」によって、「作りたいゲーム」「売れているゲーム」を再現性のある形に落とし込みます。実際にゲームを再現する段階で得られた「面白さの要素」「原理原則」をできるだけ自分の言葉で説明できるようにします。 次に得られた理論をもとに既存のゲームの面白さの要素を複数組み合わせる、またはインスピレーションで得られたアイデアを少しずつ試していきます。これは何年もかけて開発を行うよりも数週間から数ヶ月といった短い期間のサイクルでリリースして、その反応を見ながら得られた結果が正しいかどうか検証すると良いです。
この循環によって、「作りたい」情熱を市場で伝わる形へ翻訳できるようになります。
5. まとめ:「模倣で学び、理解で超える」
以上、「作りたいゲーム」と「売れるゲーム」は、“模倣による実践”と“理解による理論”の往復で両立できるということでした。
- 徹底模倣で「市場に伝わる文法」を学ぶ
- 基礎理解で「自分の理想を設計する構造」を掴む
- その往復を通して、“感情が伝わる設計”=作りたいし売れるゲームを実現できる
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