今回は「How to find amazing game ideas (素晴らしいゲームのアイデアを見つける方法)」というが動画がゲームデザインに役立つのでその内容をまとめたいと思います。
動画の概要
この動画は大まかに以下の3つのパートに整理できます。
1. ゲームアイデアの発想法(4つの源泉)
ゲームのアイデアは何もないところからは生まれません。 そこでアイデアを発想する方法として以下の発想法があります。
- ① 他のゲームから発想する (Other Games)
- ② ジャンルから発想する (Using Genres)
- ③ メカニクスから発想する (Make Mechanics)
- ④ 体験・テーマから発想する (The Experience)
① 他のゲームから発想する (Other Games)
この方法は「既存のゲームを別の形に変える」という手法を使います。
| 手法 | 既存のゲーム | → | 変更点 | → | 別の形 |
|---|---|---|---|---|---|
| 視点を変える | Factorio (2Dトップダウン) | → | 一人称化 | → | Satisfactory (FPS) |
| テーマを変える | Minecraft | → | 海中 | → | Subnautica (Minecraftを水中で再現する) |
| 媒体を変える | Werewolf (人狼ゲーム [アナログゲーム]) |
→ | デジタル化 | → | Among Us (オンライン対戦可能) |
| 廃れたジャンルを復活 | Harvest Moon (牧場物語) |
→ | JRPG化して自由度が 低くなった要素を 本来のシステムに復活 |
→ | Stardew Valley |
| 自分のフィルターを 通すことで独自性が生まれる |
はかいマン (荒削りなフリーゲーム) |
→ | 独自の世界観 や表現を追加 |
→ | Hotline Miami |
この発想法は「他人の影響を受けている」「オリジナルゲームでない」という悪い印象があるかもしれませんが、ゲームは後続するゲームにしばしば影響を与えるものです。
例えば、ハカイマンから、Hotline Miamiが生まれ、その暴力表現は Ape Out、God's Trigger、Anger Foot、Katana Zeroなどに受け継がれています。 Minecraftはブロック型サンドボックスゲームのInfiniminerをベースにしています。Vampire SurvivorsはAndroidのゲーム Magic Survivalから大きな影響を受けています。PUBGのバトルモードはFortniteに大きな影響を与えています。
ですので、好きなゲームに影響を受けてゲームを作ることを否定的に考える必要はありません。ただし、見た目を変更しただけの「単なるクローンゲーム」にしないことです。「舞台」「世界観」「媒体」「視点」などを変えることでユニークなゲームとなります。
そのことについて、Dicey DungeonsはDream Questに大きな影響を受けていますが、そのことについて開発者の Terry Cavanagh氏は「創作はなにもない空間から生み出されるものではなく、すべてはリミックスである。そこから自分だけのユニークなものを作る」という言葉を残しています。
② ジャンルから発想する (Using Genres)
これは「既存ジャンル」をテンプレートにして、自分の工夫を加える方法です。
1). ジャンルの問題点を改善する
ジャンルから発想する方法の1つとして、単に既存ジャンルを模倣するのではなく、「そのジャンルの問題を見つけて解決する」というアプローチを行います。
例えば、Crypt of the Necrodancerの開発者は、ローグライクが乱数(運)に依存するゲームジャンルであることについて「不公平」とあまり良い印象を持っていませんでした。 そこで生まれたのがプレイヤースキルを重視するローグライクである「Crypt of the Necrodancer」です。
また、Spelunkyの開発者であるDerek Yu氏は、スーパーマリオのような2Dプラットフォーマーのゲームが好きでしたが、同じステージをプレイするのを退屈と思っていました。ローグライムも好きでしたがランダム性を理不尽と感じていました。そこで「プラットフォーマー(プレイヤースキルが必要) + ローグライク(レベルをランダム生成)」 という2つのジャンルの良いところを取り入れました。
2). コア要素を除去する・置き換える
もう1つのアプローチは「コア要素を除去する・置き換える」ということです。
例えばゲームジャムでは、あるジャンルから中核のメカニズムを取り除くというテーマを選ぶことがあります。例えばプラットフォーマーからジャンプするという「コア要素を除去」してプラットフォームを作る、というものです。
また「コア要素を別ジャンルのメカニクスから持ってきて、それに置き換える」という方法も考えられます。例えばFPSでは通常「銃」を使いますがそれを別のものに置き換えると新しいゲームになります。
- 「銃」を「カメラ」に置き換える →ポケモンスナップ
- 「銃」を「高圧洗浄機」に置き換える →PowerWash Simulator
これらのアプローチで重要なことは「ジャンルを可能な限り広い観点から考える」ことです。特定のジャンルを選んだら、そのジャンルのルールに従わなければならない、ということに固執しないことです。 もちろん、ジャンルの定番要素を取り除くのは簡単なことではなく、ゲームの面白さが失われる可能性も高いです。ただユニークなゲームを作るには「思い切ってコア要素を変える」といったアプローチが有効ということです。
③ メカニクスから発想する (Make Mechanics)
既存のゲームやゲームジャンルを飛び越えて新しいゲームメカニクスを作るにはどうすればすればよいのか?
1). 現実体験のゲーム化
1つのアプローチは「現実体験をゲーム化」することです。ゲームデザイナーのルーカス・ポープ氏は、日本人女性と結婚しているため日本とアメリカを頻繁に行き来する必要があり、出入国審査を頻繁に受けていました。その体験からゲームが作れないかと考え、入国審査をシミュレートしたゲーム「Papers, Please」が生まれました。これは訪問者の入国を許可するか拒否するか、といったことを選択するゲームです。
ゲーム以外の現実に興味を持つことは重要で、例えば宮本茂氏は園芸に興味を持った後、「ピクミン」が生まれました。またウィル・ライト氏の「シムシティ」「ザ・シムズ」は彼が読んだり学んだものからインスピレーションを得たとされています。
2). 技術や操作からインスピレーションを得る
他にも「技術」からインスピレーションを得る方法もあります。例えば Fruit Ninja はタッチのスワイプ、ゲームキューブのトリガー操作からマリオサンシャインが生まれました。
3). 既存ゲームの要素を拡張する
また「既存ゲームの一要素を拡張する」というアプローチもあります。
ボトムアップ型とトップダウン型のアプローチ
ゲームアイデアを考える方法として、ボトムアップ型(メカニクス→テーマ)とトップダウン型(体験→メカニクス)の2方向があります。
| アプローチ方法 | 出発点 | → | 後付けするもの | 補足 |
|---|---|---|---|---|
| ボトムアップ型 | ルール 動詞(アクション) システム |
→ | ストーリー テーマ 体験 |
任天堂などでよく使われる方法。 例:スプラトゥーンはインクを発射して 「塗られた」空間に「潜る」という遊び |
| トップダウン型 | ストーリー テーマ 体験 |
→ | ルール 動詞(アクション) システム |
例えば小島監督作品。 例: デス・ストランディングは 死んだクジラが並ぶ海岸が出発点 |
ここまで紹介した「① 他のゲームから発想する」「② ジャンルから発想する」「③ メカニクスから発想する」はボトムアップのアプローチです。 次に紹介するアプローチはトップダウン型のアプローチに分類されます。
④ 体験・テーマから発想する (The Experience)
これはプレイヤーに与えたい「体験」や「ファンタジー」から始める方法です。 作品と体験の一例は以下のとおりです。
| 作品例 | 体験 |
|---|---|
| FTL | 宇宙船艦長となって、宇宙探索のスリルと混乱を味わう。 「プレイヤーには艦長になって、混乱時には叫んで船員に 指示を出しているかのような体験をさせたかった」とのこと |
| Thronefall | 小王国の建築と防衛 |
| Spiritfarer | 死にゆくというテーマを心地よく健全な方法で 優しく描きたいという願望から生まれた作品 |
| Into the Breach | ヒーロー戦闘の都市破壊をテーマに。 モンスターが破壊する街を守るヒーローという発想から生まれた |
| That Dragon, Cancer | 個人的体験を基にした作品 |
ただし、ストーリーや1要素は「きっかけ」に過ぎず、プレイ可能な構造に落とし込む必要があります。 例えば以下の問いかけに答えることでゲームに落とし込むことができます。
- 目的:個々のレベルまたはシーンにおけるプレイヤーの目的は何か? 勝利状態とは何か?
- 障害:何がプレイヤーを勝利状態から遠ざけているのか? 何が彼らの成功を妨げているのか?
- 失敗:プレイヤーを突き動かす障害は何か? 失敗状態とは何か?
- 行動:それらの障害を克服して勝利状態に到達するには何をするのか? プレイヤーの行動は何か?
まとめ
まとめとして、ゲームアイデアを生み出す4つの方法について、それぞれ「どんな人に向いているか」「どんなゲームを遊んできた人か」「どんなゲームを作りたい人か」の観点で相性を整理しました。
| 方法 | 向いている人の性格 | 今まで遊んだゲーム | 作りたいゲーム |
|---|---|---|---|
| 1. 既存のゲームを アレンジする |
• 「好きな作品へのこだわり」が強い人 • 細かい不満点や改善点に気づく観察力がある人 • リミックスや改造文化に親しんでいる人 |
• 特定シリーズをやり込んでいる人 (例:牧場物語、モンハン、ポケモンなど) • MOD文化やファンゲームに触れたことがある人 |
• 「あのゲームのここを直せばもっと良くなる」という改善版 • 原点回帰や復古的なシンプルさを取り戻したゲーム • 人気ジャンルを踏襲しつつ新しい視点・媒体を導入した作品 (例:2D→3D、一人称→三人称) |
| 2. ジャンルから 発想する |
• 「仕組み」や「ルール」が好きな論理派 • ジャンルの枠組みを分析するのが得意な人 • 新旧ジャンルの「いいとこ取り」を考えるのが好きな人 |
• ひとつのジャンルを幅広く遊んできた人 (ローグライク、シミュレーション、RTSなど) |
• 「このジャンルのここが不満だ」と言語化してきた人| • 「既存ジャンルの弱点を克服する」ゲーム (例:リズム×ローグライクのCrypt of the NecroDancer) • ジャンル同士のハイブリッド作品 (例:プラットフォーム×ローグライクのSpelunky) • コアメカニクスを削ぎ落として再構築する作品 |
| 3. 現実世界をゲームに落とし込む | • ゲーム外の経験や観察からアイデアを拾う人 • 「これをゲームにしたら面白いかも?」と日常で考えてしまう人 • 独創性や発想力に自信がある人 |
• シム系やシリアスゲーム (SimCity, The Sims, Papers, Please) • 現実を模したサンドボックスやシミュレーション (Microsoft Flight Simulator, Farming Simulatorなど) |
• 身近な行為をメカニクス化した作品 (例:Fruit Ninja, PowerWash Simulator) • 社会的・文化的なテーマを扱うゲーム (例:Papers, Please, This War of Mine) • 遊びの根源を現実から切り出す作品 (ピクミン=園芸、Splatoon=水鉄砲の感覚) |
| 4. 体験から 作る |
• 感情や体験を表現したいクリエイティブ志向の人 • 「プレイヤーにどう感じてほしいか」から逆算できる人 • 抽象的なテーマやビジョンを形にするのが得意な人 |
• 強烈な雰囲気や体験を持つ作品 (Journey, Death Stranding, Spiritfarer, That Dragon, Cancer) • 世界観やストーリーが中心のインディー作品 |
• プレイヤーに「役割」や「感情」を強く味わわせるゲーム (FTL, Thronefall) • 重厚なテーマを優しく伝えるゲーム (Spiritfarerの死生観など) • 個人的体験や哲学を作品に込めたアート性の強いゲーム |
これらを一言でまとめると以下のとおりです。
- ① 改善欲の強い人 → 既存ゲームをアレンジ
- ② 仕組み好き・ジャンル分析派 → ジャンルから発想
- ③ 日常や社会に好奇心がある人 → 現実世界を落とし込む
- ④ 感情や体験を表現したい人 → 体験から作る
なおこの4つの方法は「排他的(どれか1つを選ばなければならない)」ではなく、複合的に選択できます。 実際、成功しているゲームの多くは 複数の発想法を組み合わせて誕生 しています。
- Stardew Valley: →「①既存ゲームのアレンジ(牧場物語の原点回帰)」+「④体験(自分が理想とする農場生活の実現)」
- Papers, Please: →「③現実世界の観察(入国審査)」+「④体験(書類を確認する緊張感を味わわせたい)」
- Spelunky: →「②ジャンル発想(ローグライクとプラットフォーマーの融合)」+「①既存ゲームのアレンジ(Nethackやマリオからの影響)」
- Death Stranding: →「④体験(孤独な配達・人と繋がる感覚)」+「③現実世界の比喩(物流・交流)」
複合的に取り入れるメリットとしては以下のとおりです。
- アイデアの深みが増す: 一つの視点に頼らないため、発想がより立体的になる
- 独創性が高まりやすい:「現実からの発想」×「ジャンル融合」などの掛け算で、唯一無二の体験になる
- 開発の指針を柔軟に持てる: 企画段階では「体験」重視、実装段階では「ジャンル」ベース、といった切り替えが可能
使い分けのイメージとしては、開発段階に応じて3つのステップで考えると良いと思います。
- 出発点 → どれか1つの方法でアイデアを見つける
- 発展段階 → 他の方法を組み合わせて肉付けする
- 完成形 → 4つの要素が自然に融合しているのが理想
つまり、ひとつに固執する必要は全くなく、むしろ「複合的に取り入れる方が強いアイデア」になりやすいです。
2. アイデアを生むための10のヒント
- ゲームを原子的要素に分解し、リミックスの材料にする
- プレイ中に批評家の目で「欠点」を探す。改善が新しい発想につながる
- 常識を覆す(例:Risk Legacy → セッション間でボードが変化)
- 幅広いゲームをプレイし、異分野の要素を取り込む
- 制約を設けて発想する(例:色彩豊かなゲームの後に白黒作品 Simogo)
- ゲームジャムに参加。テーマが創造の制約+刺激になる
- 実際にエディタを開いて触ってみる。開発中の発見から生まれるアイデア
- 音楽・アートからインスピレーションを得る(例:曲→World of Goo)
- 「何もしない」時間にアイデアは浮かぶ(シャワー・散歩など)
- アイデアは「種」として小さく始める。大規模計画を紙で作りすぎない
3. アイデアの検証方法(3つの問い)
| カテゴリ | 問いかけ |
|---|---|
| ① 作れるか? | ・開発者の時間・予算・スキルに見合っているか? ・プロトタイプを1–2日で作れる規模なら、1–2年で完成できる目安 ・スコープ縮小も有効(例:Firewatch → キャラを排除し無線会話中心に) |
| ② 目立つか? | ・市場に埋もれず注目されるか ・「フック(hook)」=一文で人を引き付ける独自要素。 例:「ダンジョン探索で心理的ストレス管理」=Darkest Dungeon ・ただし革新しすぎは逆効果。理解できる「アンカー(anchor)」も必要 |
| ③ 楽しいか? | ・頭の中では面白くても、実際に作ると凡庸になることが多い ・唯一の方法は プロトタイプで検証すること |
まとめ
- ゲームアイデアは「他のゲーム」「ジャンル」「メカニクス」「体験」の4源泉から得られる。
- 10のヒント(分解・批評・制約・ジャム・音楽・生活など)で発想を広げる。
- 検証は3つの問い:「作れるか?」「目立つか?」「楽しいか?」を確認し、プロトタイプで答えを出す
参考
・テキスト
・動画