概要
内部経済は、 Game mechanics (ゲームメカニクス) の一種。ゲーム内部経済をデザインすることは、ゲームデザイナーのコアとなる作業で、それによりチャレンジングな Interaction (相互作用) や楽しみを生み出すことができる。 Resource Management (リソース管理) 。
内部経済を設計する意義
Game play (ゲームプレイ) を理解にするには、その世界で作られている経済を理解することが不可欠となる。もちろんゲームによって経済が小さくシンプルなものがある。例えば、パックマンのような古典的ゲームでは Resource (リソース) は、迷路内のドットとパワーエサ、時折出現するボーナスアイテム、敵、そしてプレイヤーの Lives (残機) の5つのみとなる。それに対して RPG や ストラテジーゲーム では、100や1000を超える Resource (リソース) が存在する。
ただ、どちらにしてもゲームの駆け引きが生まれている事実から、経済が大小に関わらず内部経済を働きを意識した設計することは重要なタスクとなる。
内部経済の要素 (出典:Foundamentals of Game Design)
内部経済を構成する要素は、大きくわけて以下の3つの要素が存在する。
1. リソース
リソースはゲーム内におけるほぼすべてのものが当てはまる。アイテム、パワーアップ、敵、お金、エネルギー、時間、ユニットなど。
またすべてのリソースがプレイヤーが制御できるものではなく、例えば時間は単独で消費され、プレイヤーを変更することは特別なメカニクスが存在しない限り変えることはできない。
プラットフォームや壁、その他、非アクティブなレベルの機能はリソースとならない
有形リソースとは、ゲーム世界の特定の場所に存在したり移動したりする存在。アバターや収穫できる木、アイテム、ユニットなど。
無形リソースとは、Warcraft における収穫された木材のようなインベントリに数値としてのみ存在するリソース。もしくは Shooter game (シューティングゲーム) における Health (HP) も無形リソースとなる。
ゲーム内経済に存在しないリソースを、ユーザーに見せない形で保持することが有用な場合もある。例えばストラテジーゲームでは、戦況の有利不利をリソースパラメータとして保持しておき、AIの行動の判断材料として使用する方法も考えられる。
2. エンティティ
リソースを保持するのがエンティティである。エンティティはプログラマーにとって、「 パラメータ (Parameter) =変数」と同義。
例えば、「タイマー」エンティティは、時間リソースとして残り秒数を保持するなど。
- 単純エンティティ:1つの Parameter (パラメータ) のみを保持
- 複合エンティティ:複数の Parameter (パラメータ) を保持
タイマーエンティティは単一パラメータなので「単純エンティティ」、ユニットは移動速度や Health (HP) などを保持しているので「複合エンティティ」となる。
3. 経済要素 (機能)
経済要素には、リソースの「生産」「消費」「変換」「交換」を可能にする4つの機能がある
何もないところから新しいリソースを生み出す仕組み。例えばお金やアイテムをドロップする敵のポップなど。
ソースの動作に必要な Parameter (パラメータ) は以下の通り。
- 発生条件:イベントなどが発生する条件。特定の時間や経過時間、プレイヤーの行動など
- 動作の周期:ソースが動作する周期
- 生産速度:リソースを生産する速度
例えばシミュレーションゲームにおいて、お金の生成は「ソースの動作周期」で生み出され、その金額は領地の人口に比例する。
バトルが中心の Hack ’n’ slash (ハック&スラッシュ). のようなゲームであれば、ソースの時間の経過により敵が生産され、敵を倒すときに減少したプレイヤーの Health (HP) の回復速度 により、得られる XP やお金の量がある程度決まる。
ドレインは「1. ソース」と同じパラメータとなるが、「生産」ではなく反対の「消費」となる概念。エンティティに保存されているソースを奪い、永久に削除する。
例えば、シミュレーションゲームに置いて、人口を養うのに必要な「食料」は一定の周期でドレインされる。ドレインされた「食料」はどこかに移動するのではなく、ゲーム内から完全に削除されることとなる。
Shooter game (シューティングゲーム) での弾丸も発射されることで「ドレイン」され、消費される。
コンバーターはある種類の「リソース」を別の「リソース」に変化させること。
例えば「Warcraft」では、”木” が収穫されると “木材 (素材アイテム)” へと変化する。つまり収穫行為は、特定の速度で木をを木材に変換するコンバーターのメカニクスとなる。
そして多くのシミュレーションゲームでは、より多くの木材を得るコンバーターのアップグレードの仕組みが用意されている。
トレーダーは、為替ルールに従って、リソースをあるエンティティ(X) から別のエンティティ(Y) へと「交換」することができ、またゲームによっては エンティティ(Y) から エンティティ(X) への「逆交換」も可能としている。
例えば、プレイヤーが「金貨」を使用して、鍛冶職人が保有する「盾」を購入すると、リソースはお互いに交換され、どちらも「消費」されずにゲーム世界に残り続けるのがコンバーターとの違い。
もし「盾」の存在が無限数であれば、鍛冶職人の盾はソースであり、コンバーターであると言えるのかもしれない。
内部経済の要素 (How Video Game Economies are Designed)
「Foundamentals of Game Design」とはやや異なる概念で説明されている動画があったので、以下はその動画内での用語で仕組みを解説する。
なお経済の要素は Resource (資源) で構成されているという基本概念に変更はない。経済の流れを構成する要素が “4つ” から “5つ” となっているのが大きな変化となる。
5つの経済要素
Tap (タップ) は経済の中に新たなリソースを「生産・発生」させるもの。Source、Faucet (蛇口) とも呼ばれる。
以下は タップの具体的な例。
- ザコ敵:倒すと「経験値」が得られる
- 製材所:「木材」を伐採する
- 「再生中」の体力ゲージ
- 岩:壊すと「鉄鉱石」が出る
生成条件には以下の条件・パラメータがある
- 時間単位で自動生成する
- プレイヤーが手作業で採掘する
タップはプレイヤーの行動の「動機付け」に使える、という特徴がある。
プレイヤーにさせたいこと | → | タップ |
---|---|---|
モンスターと戦わせたい | → | モンスターを倒すと戦利品が得られる |
世界を探検させたい | → | 地域ごとに「固有」のクラフト素材を 採取・採掘できるようにする |
デーモンを素手で殴らせたい | → | グローリーキル (素手でデーモンをバラバラにする) でデーモンを倒すと、 回復アイテムや弾薬をドロップする |
またタップにより得られるリソースの「希少性」「価値」によって、経済の流れを変えることもできる
- Survival horror (サバイバルホラー) における、貴重なアイテム「弾薬」のタップを少なめにする
- FPS (First person shooter) の「弾薬」は豊富にあり希少性が低い
アンチパターン:「壊れたタップ」
「タップ」は Resource (リソース) の源泉であるため、制約なしに有用なリソースを無限に採取できる不具合が見つけられる(稼ぎポイント)とゲーム内経済が破綻する
Inventory (インベントリ) とはリソースを格納する持ち物のリスト。メニューの一部としてアイテムの一覧を表示するのが一般的な意味だが、単にHPゲージや所持金の数値という表示も含む。
インベントリの設計で重要なのは「所持上限数」。以下、制限の単位の例。
- 数:アイテムの所持数による制限
- 重量:アイテムごとに重さパラメータが存在して、合計重量による制限を行う
- コスト:コストの合計による制限
これらの制限があることで以下の効果が得られる。
- アイテムの取捨選択による決断をプレイヤーに迫ることができる
- アイテムの貯めすぎを防ぐことができる (e.g. エリクサーを最後までストックするなど)
Converter (コンバーター) とはリソースを「交換」できる要素。単体では使いみちのないリソースを有用なリソースに変換することができる
- お金リソースを使用して、お店で装備を買う
- 素材リソースから、より強力な武器を作る
- 経験値リソースを増やして、レベルを上昇させる
コンバーターは、ゲームメカニクスによって「変換コスト」が「ペース配分」に影響する。例えば、経験値を獲得してレベルアップするようなゲームの場合、
とすると、700÷70=10 となり、10体の敵を倒すことでレベルアップできる。タップからの供給量 (敵一体あたりの獲得XP) を増やせばレベルアップ速度が上がり、変換コストを高くする(必要経験値を多くする)ことでレベルアップ速度は鈍化する。
コンバーターによるプレイヤーの決断を広げるには、限られたリソースをより多くの用途に使用できるようにすること。逆にリソースが限定的な用途でしか使用できない場合はプレイヤーの決断の幅が狭まる
- 自由度の高い選択:リソースを「様々なコンバーター」に使うことができる
- 自由度の低い選択:リソースの用途が「限定的」である
例えば Metro Exodus では、「金属部品」「化学薬品」がほぼすべてのアイテムの Crafting (クラフト) に必要とされており、何も考えずにアイテムを作ると素材がすぐに枯渇してしまう。それによりプレイヤーは計画的にアイテムを作る選択を迫られる。つまり、難しい判断をプレイヤーにさせたい場合、リソースのタップ (供給) を限定的にして用途を多様化させるのが良い。
それに対して Ghost of Tsushima では、素材が特定のアイテムにしか使用できず素材の使い分けを考える必要がなく、単純作業になってしまっている。
4. ドレイン (流出)
Drain (ドレイン) とは、タップの逆でリソースをゲーム内経済から永久に消滅させること。
以下、ドレインの例。
- 壊れる武器
- Health (HP) や部隊の喪失
- 納税や市民の食料
- 弾数制限のある銃の弾薬
つまりドレインはプレイヤーへの「損失」であり、時間とリソースが消費される。それによる効果は以下の通り。
- プレイヤーの「成長を鈍化」させる効果がある
- また損失の「穴埋め」を要求(強制)させる
重要なのは2つ目の「穴埋めの強制」。
- 空腹メーターが下がり続けることで、食料を探さざるを得なくなる
- 時間の経過により腐ってしまう食料は、優先的に消化させたり生産の最適化を求められる
- 武器が使用回数で壊れることによって、新しい武器を試したり、使用するタイミングを考えさせられる
- 死によりアイテムを失ったり減少させる場合、危険な場所や新しいエリアの探索時にリスク管理を求められる
- 荷物運び中に転倒して荷物を失う場合、欲張りすぎない程度の荷物にする必要がある
ただし、ドレインは正のフィードバックループ(弱体化。負のスパイラル)となる可能性がある。
- モノポリーでは、お金を失うたびに他プレイヤーとの競争力を失い、苦しい悪循環を繰り返すことで破産する
- XCOMでは、ユニットをロストすることで大幅に戦力がダウンする
Trader (トレーダー) はプレイヤーと同じように Inventory (インベントリ) と Resource (リソース) を保持している。そして自身の欲望やルールに基づいて、売買や取引を行う(お金を出せばアイテムを出してくれる単なる自販機=コンバーターではない)
以下トレーダーの例。
- Civilization の文明や都市国家
- The Witcher 3: Wild Hunt の商人:店の種類や場所によって異なる価格でアイテムを売買する
トレーダーが存在するゲームでは、少し変わったゲームプレイを提供できる。
- 貿易ルートの構築:ある地域で安く買って、別の地域で高く売ってお金を稼ぐ
- 資源の価値を考えさせる:場所や時期で変動する価値を見抜くパズル
ただし、トレーダーもコンバーターと同じように「正のフィードバックループ」を発生させる。例えば、有効な貿易ルートを見つけると報酬が増え続けることになり、インフレを引き起こす。
以下、トレーダーによるインフレの解決策
参考
書籍
内部経済については、こちらの本の第一章の内容が詳しいです