概要
敵から身を隠したり、こっそり近づいて背後から暗殺するなどのステルスを駆使する Action game (アクションゲーム) 。FPS (First person shooter) や Platformer (プラットフォーマー) 、 Action-adventure game (アクション・アドベンチャーゲーム) などの組み合わせられるゲームジャンル。代表作は「天誅」「メタルギアソリッド」「Thief: The Dark Project」など。
特徴
ほとんどのアクションゲームと異なり、プレイヤーは敵に見つからないように行動することが必要となる。戦闘を避け、正面からの衝突をせずに背後から敵を暗殺する。
敵の視界に入らないようにする建物などの遮蔽物が存在し、そこに身を隠して敵が後ろを向いたときに行動を起こすことになる。
もし敵に見つかったときには、敵が捜索を放棄するまで視界外に逃げ続けるか、敵を殺して脅威を制圧をする。
ゲームデザイン
光と影の存在
暗闇に隠れることが有利となるため、光と影の表現が重要となる。レベルを設計する際にはこの「光」と「影」がどのように視界を遮蔽するのかを想定する必要がある
物音の扱い
サウンドが重要である場合には、物音で敵がプレイヤーを発見することがある。
監視カメラ
舞台が組織的な団体である場合、建物には監視カメラが仕掛けられていることがある。それに見つかることで「アラートフェーズ」が発生する
アラートフェーズ
敵や監視カメラに見つかることで、警報音とともに「アラートフェーズ」が開始される。アラートフェーズでは、敵や建物すべてが警戒状態となり、積極的にプレイヤーを探索しようとする。
ゲームによってはアラートフェーズの開始とともにゲームオーバーとなるものもある
Schol of Stealth
概要
- 敵の知覚
- 情報収集
- 強固な発見システム
ステルスゲーム・敵の視覚と聴覚 | School of Stealth Part 1「隠れている状態」
視覚を模倣するために、一般的に守衛は Viewing cone (視野角) を持っている。
この三角形で表現された「視野角」にプレイヤーが入ると、守衛に探知されてプレイヤーを追いかけ回したり攻撃したり、仲間に知らせるなどの行動を取る。
Splinter Cell Blacklist では①前方の狭い視野に絶対に発見できるエリア(Cone)、②それを囲む注意深いときに発見するエリア(Box)、③守衛の斜め後ろに小さな第六感エリア(Peripheralの後ろの境界ボックス)を視野角とすることで、より繊細な判定を行っている。
高低差(高いところは見つかりにくい)を考慮する場合は、視野角を高さの軸まで拡張する必要がある
ステルスゲームでは「遮蔽物」に身を隠すシステムが使われる。プレイヤーと守衛の間に「遮蔽物」が存在するかどうかをチェックするには「レイキャスト」を使用する。
さらに Splinter Cell ではプレイヤーを複数のパーツにわけて、守衛から一定数のパーツが見えたときにプレイヤーを認識するようになっている。
Splinter Cell では守衛には「認識ゲージ」があり、プレイヤーを発見することでこのゲージが上昇する。そしてこれが最大になることでプレイヤーの位置を正確に理解した状態となる。守衛とプレイヤーとの距離が遠い場合や視界が悪い場合には、このゲージの上昇は遅くなる。以下、ゲージの上昇を遅くする5つのパラメータ。
- 1. Distance (距離): プレイヤーとの距離が遠い
- 2. Angle (視野角): 守衛の視野角の周囲にいる
- 3. Lighting (明るさ): 光源がなく暗い場所
- 4. Stance (姿勢): しゃがんでいる
- 5. Motion (プレイヤーの動き): その場から動かない
またプレイヤーの情報以外にも、プレイヤーの存在を意識させる情報がある。
- 閉まっていた扉が開いている
- 興味を引くオブジェクトが配置されている
- 仲間の死体
これらを見つけたときに、守衛が警戒状態となることで「知能」や「認識能力」を感じさせることができる。
プレイヤーが立てる音に反応することで、聴覚を模倣することができる。例えば銃を撃つ、音が出る床を歩く、石を投げる、など。
音には、音量に応じてそれを聞き取ることが可能な範囲が存在する。そして、その範囲内に守衛がいる場合、音の発生源を確認するための行動を取ることとなる。
もし音源と守衛の間に壁がある場合、経路探索によって音の範囲を経路伝いに移動させる。
見えないパラメータによる「視覚」「聴覚」の模倣は、プレイヤーに判定の曖昧さを感じさせてプレイのストレス(よくわからないが守衛に見つかった)となる。
そこで、守衛がプレイヤーを認識していることを視覚的に表した UI を使用する。
例えばThief (1998)では、プレイヤーの明るさ(目立ち具合)を示す「ライトジェム」というゲージが表示されている。Splinter Cellでは、プレイヤーがどれだけ音を立てているかを示す探知表示器が用意されている。
探知表示器によっては、「敵の状態」や「敵の位置」を教えてくれるものもある。
守衛のアニメーションやモーション、サウンドでプレイヤーへの認識を表現することができる
- ボーっとして怠けている守衛:集中力に欠け、認識能力が低下している
- 武器を構えている守衛:周囲の驚異に警戒していて、周りの変化に過敏になっている
- 守衛のセリフやアイコン:周りを警戒するようなセリフや「!」などのアイコンを表示する
敵に必ず見つかることのない「安全地帯」は、安全に偵察でき計画をじっくり立てられる効果がある。
- Batman: Arkham Knight: 高所にあるガーゴイル
- Assassin’s Creedシリーズ: 茂み
- Hitman: 木箱
プレイヤーにとって有利になるシステムを導入する。
It doesn’t matter what the NPC can see or hear from a simulation perspective. It’s what the player thinks the NPC should be able to see or hear.
NPC がどのようなシミュレーションで何を見たり聞いたりしているかは問題ではない。 プレイヤーから見て、NPC が見たり聞いたりしているものを理解できることが重要なのだ。
出典:GDC Vault – Modeling AI Perception and Awareness in Splinter Cell Blacklist
Splinter Cell Blacklist のプログラマー Martin Walsh によれば、「視覚」「聴覚」は必ずしもリアルなシミュレーションをする必要はなく、ゲームを遊んでいるプレイヤーに理解できるものであれば良いとしている。そして、Splinter Cell Blacklist では、「プレイヤーが見える画面外の守衛の聴覚は半減される」というルールを採用した。これによりプレイヤーが不自然に有利になるように思えるが、実際遊んでいるプレイヤーにとっては違和感を減らすメリットが得られる。(見ることができないキャラに音を聞かれるのは不公平であるという問題を軽減する効果がある)
また The Last of Us では、通常、守衛はプレイヤーキャラクターの「頭」にレイキャストして視認できるかどうかを判定するが、プレイヤーがしゃがんでいる場合は「胸」にレイキャストすることで、遮蔽物から覗くことができるようにしている。
また、守衛の視野角に入ったとしても「即座に発見」することなく、存在の発見から警戒までは少し「猶予時間」をもたせるようにしている。これはプレイヤーが優位となる仕組みでもあり、人間の認知能力は少しラグがあることをシミュレートしているとも言える。
Viewing cone (視野角) をプレイヤーに開示するという方法もある。
Mark of the Ninja ではサーチライトや守衛の視野角は、しっかりとプレイヤーに見せている。
またプレイヤーが影に隠れているのか光にさらされているといった判定もキャラのスプライトの表示状態で理解できるようになっている。
さらに音を立てた場合、その範囲は音源の中心から発生する円形の波動で確認できるようになっているし、音を立てる前にその範囲が視覚的に表現される。
明示的に表現するメリットとして、発見されたのかそうでないかを完全な二値的な発見システムとして採用することができる(もちろんファジーシステムと組み合わせることも可能)。
Shadow Tactics: Blades of the Shogun では、3段階の視野角を用意して、それぞれでやるべきことを明確にしている。
- すぐに見つかる危険な視野角
- しゃがんでいれば見つからない視野角
- 安全な視野角
3Dゲームの場合は、視野角を表示しにくいこともあるので、簡易表示された2Dミニマップに視野角を表示する方法もある (メタルギア・ソリッド、Deus Ex: Mankind Dividedなど)
It’s about getting the player’s heart pounding by holding them on the cusp [of being found].
(ステルスゲームは) ギリギリの状態でプレイヤーのドキドキを感じさせるゲームだ。
TOM LEONARD (Lead Programmer, Thief: The Dark Project)
ステルスゲームが持つ面白さは、攻撃性能を駆使して攻略するゲームではなく、敵から隠れる能力を使ってプレイヤーが力を発揮するゲーム。敵に見つかっていないというアドバンテージを失うかもしれないリスクとのトレードオフで潜入して攻略を行う。そういった「見つかるかもしれない」というドキドキ感こそがステルスゲームの本質といえる。このゲームプレイは長く生き残ることを目的とした Survival horror (サバイバルホラー) と相性が良い。
しかし、あまりにも明示的に「視野角」を表現してしまうと、この「ドキドキ感」は失われてしまうことに注意する必要がある。
例えば Alien Isolation のような圧倒的強者のゼノモーフがどこを見ているのか正確にわかってしまうとドキドキ感は失われることになるだろう。このゲームの恐怖や不安感はエイリアンの感覚がどこにあるのかを探ってうまく戦闘を回避することにあるからだ。
ただ、敵を暗殺するようなゲームプレイを求める場合は、視野角を明確にするメリットもある。
例えば Mark of the Ninja は、敵を暗殺する忍者を操作することになるので、視野角を明確にして理解させることで迅速に暗殺を繰り返す強大な力を手に入れたようにプレイヤーに感じさせることができる。
As we were iterating, I found that I wasn’t nearly as interested in guessing whether a guard would hear me or not, and way more interested in creating an elaborate death trap.
繰り返しのユーザープレイで分かったことは、守衛の視覚や聴覚を推測することにはほとんど関心がなく、プレイヤーの最も大きな関心は守衛たちに対して手の込んだ「死の罠」を作成することだった。
JAMIE CHENG (Executive Producer, Mark of the Ninja)
もちろん、プレイヤーに対して強力な道具やスキルを与えたり、安全地帯を用意することで、敵を捕食する面白さを味わうこともできる。しかしステルスゲームの本質は、敵の知覚を予測して敵に見つかっていないアドバンテージをキープしながら敵を捕食する楽しさにある。
ステルスゲーム・五種類の秘密道具 | School of Stealth Part 2
ステルスゲームの主人公は何かしらの秘密道具を持っている
- HITMANの主人公 エージェント47: ピアノ線
- Splinter Cellの主人公 サム・フィッシャー: 暗視装置を内蔵した複眼ゴーグルや部屋を偵察するファイバーカメラ
- Dishonored 2の主人公エミリー・カルドウィン: テレポートや分身などの超常能力
本来ステルスゲームとは、守衛が通り過ぎるのを隠れて待つだけではなく、道具や超能力、スキルを駆使してプレイヤーの有利な環境に変えることが主なゲームプレイである。
これらの秘密道具は大まかに以下の5つの機能に分類される。
No | 機能名 | 詳細 | 例 |
---|---|---|---|
1 | 情報収集 | キャラクターの通常の視点よりも広範囲、 別の視点で見ることを可能にする。偵察。 情報の優位性(※1)を得られる | Splinter Cell: ファイバーカメラによる偵察 Invisible, Inc.: 鍵穴を覗く Dishonored: カバーの体勢を傾けて覗く MGS3: 暗視ゴーグルや尋問スキル |
2 | 敵を操る | 守衛の「視覚」「聴覚」や行動を、 プレイヤーの都合が良いように操作する。 罠や暗闇に誘い出す | MGS: 小石や雑誌を配置して注意を惹く Batman: Arkham Knight: バットラング Splinter Cell: ステッキーカメラ (遠隔操作の爆弾) Mark of the Ninja: クナイを投げる。 敵を錯乱させ同士討ちを仕向ける |
3 | 空間の 再定義 | ステルスゲームでは2つの区域 「安全地帯」「危険地帯」 が存在(※3)するが、それを作り変える。 ステージを動的なパズルに置き換える | Thief: ロウソクを氷の矢で消す。 床に苔の矢を放ち足音を消す MGS3: 迷彩服で周囲の環境に溶け込む Hitman: 変装で侵入する資格を得る |
4 | 機動性の 拡張 | 見張りの目の届かない場所に移動できる 多くのゲームの場合、しゃがみやうつ伏せ などの “姿勢(※4)” による回避を用意している | Batman: Arkham Knight: 鉤縄をガーゴイル像に 引っ掛けることで高所への移動ができる Splinter Cell: 股割りジャンプで高所に登る Disohonored: 近距離テレポート能力 |
5 | 敵の 無力化 | 敵の行動や存在を「無力化」する 武器(※5)が用意されている。 ただし、マシンガンやロケットランチャー のような強力な武器は用意されていない | 棍棒、地雷、サイレンサー銃 |
敵の注意を惹く「小石」が無限湧きしてしまうと、そればかりを使う作業プレイのゲームとなってしまう。またすべての松明に明かりをつけられて、「情報の入手」をあまりにも容易にしてしまうとゲームプレイが単純化・均一化する。たとえば Assassin’s Creed Origins では鷲を上空に移動させて視界に存在する敵に「タグ」をつけられる。問題は「タグ」を一度つけてしまうと、敵が死亡するまで位置を把握できてしまい、「観察」→「行動」のループがたった1度に平坦化され単純作業のゲームとなってしまったことである。
他にも、X線により敵を視認できる機能は便利だが、そればかり使うとステルスゲームの緊張感は失われる。
In practice, the vast majority of players embark on relentless concussion rampages, which depopulates a level / severs connections between systems / makes the game boring — so the optimal choice results in a increasingly worse game. I think something else should replace this dynamic.
(ステルスゲームにおいても)実際には、かなりの割合のプレイヤーは激しい大暴れをしようとします。これによりレベル内の敵が減り、システム間の接続が切断され、ゲームが退屈になります。したがって、プレイヤーの最適な選択は、さらに悪いゲームになります。 このダイナミクスを何か他のものに置き換える必要があると思います。
引用:敵を殺すことについて Radiator Blog: Design reboot: Thief – Robert Yang
ステルスゲームで敵を殺した結果、そのレベルは過疎化し、敵に見つからないように観察・行動をする必要がなくなってしまう。例えば Dishonered でも潜入する際に敵を殺しながら進むと、帰りの脱出時は敵の死体の山を通過することになり、そこに駆け引きは存在しない。
道具を均一化するには使用回数や対象を「限定・制限」することだ。
Ghost Recon Wildlands では、Assassin’s Creed Origins の鷲に似たシステム(ドローンを上空に飛ばす)が用意されているが、電池に制限があり飛行距離が短く、そして敵に撃墜されるリスクを持っている。つまり情報収集はできるものの「万能ではない」機能となっている。The Last of Us では、壁越しに敵を目視できるものの、目視できる敵は音を立てている対象に「限定」される。Deus Ex では、敵にタグ付けできるが、タグの数には「制限」がある。
もう1つのアプローチは能力を「一時的」な効果とするものだ。
Splinter Cell では、照明を消すためにヒューズを飛ばしても、「一定時間経過後」に点灯してしまう。Mark of The Ninja での煙玉は視認が困難な安全領域を作るが、小さくて「一時的」なものである。
ステルスゲーム・プレイヤーを発見した時の対応 | School of Stealth Part 3
参考
- WIKIPEDIA – Stealth game
- Game Maker’s Toolkits – ステルスゲーム・敵の視覚と聴覚 | School of Stealth Part 1
- Game Maker’s Toolkits – ステルスゲーム・五種類の秘密道具 | School of Stealth Part 2
- Game Maker’s Toolkits – ステルスゲーム・プレイヤーを発見した時の対応 | School of Stealth Part 3
- Radiator Blog: Design reboot: Thief. – Robert Yang