商業連載した4本の漫画すべてがアニメ化したという、驚異のヒット率を誇る漫画家のヒロユキ先生のインタビュー記事「まずはTwitterでバズる! 『カノジョも彼女』のヒロユキ先生に聞く、売るための分析&アピール術」が公開されていたので、これを参考にゲーム開発に応用ができないか考えてみました。
目次
1. 自分が好きなネタをひたすらネットにアップして、それが受け入れられるかを探る
いろんなネタを片っ端から試しに描いては公開するの繰り返し。そうすると感触が良かったものに法則性が見えてきたんです。ひたすら総当たりで壁打ちして、一つ当たったら「よし次!」って。そうするうちに「俺はこういうマンガが面白く描けるんだ」って、自分の作風や方向性が見えてきました。
まずはTwitterでバズる! 『カノジョも彼女』のヒロユキ先生に聞く、売るための分析&アピール術
ヒロユキ先生が漫画家を目指していたときは、商業デビューがなかなかできずに苦労していたようです。そこで始めたのがネット上への漫画の公開と、同人誌での二次創作漫画です。
その中で、読者の反応を調べ、ウケが良かったものを自分なりに分析して、どういった作風なら勝負できるか、どのようにすれば目立てるかを試行錯誤していたとのことです。
これをゲーム開発に置き換えると、いきなり大きなプロジェクトを立ち上げずに、小さくても自分の個性が反映されるゲームを作り、その反応を見ながら方向性を決めていくのも良いかもしれません。
具体的には、Game A Weekのように、1週間でゲームを完成させてその反応を見ていくというのが近いように思いました。
Game A Weekの定義まとめジャンルや作りたいものによって、期間は「1週間〜2ヶ月」に変動するかと思いますが、大切なのは「自分が好きなもの・作りたいもの」がどれだけ他の人に受け入れられるのかを把握する、ということです。おそらくですが、自分の能力を盲目的に過信せず、世の中に受け入れられるかどうかを客観的に判断して、「自分が好きでも、あまり他人に受け入れられないもの」は優先度を下げ、別のネタでチャレンジしてみるのが良いような気がしました。
そして評価されるところがあれば、次の作品でも活かすようにします。良いところを次に活かして何を改善するのか、という考え方は KPT が参考になると思います。
ゲーム開発の振り返りに使える「KPT」の紹介2. Twitterでバズることから始める
──自分というマンガ家、また、自分のポートフォリオをアピールするためには、さまざまな手段が考えられます。仮に今、ヒロユキ先生がデビュー前の新人だとして、どう動きますか?
ヒロユキ:誰かの目に止まらなきゃバズらないので、とりあえずTwitterで4ページマンガを発信して、いろんなハッシュタグを付けるでしょうね。
二次創作とオリジナル、どちらでもいいと思いますが、僕だったら最初は二次創作で見てくれる人を増やすかな? まずは好きな作品のイラストやマンガを描いて、フォロワーを増やす。フォロワーが1,000人以上はいないと、戦いにくいと思いますし。面白いネタができたら拡散できるくらいのフォロワー数になったところで、オリジナルも混ぜていって……そんな感じでしょうか。
まずはTwitterでバズる! 『カノジョも彼女』のヒロユキ先生に聞く、売るための分析&アピール術
「カノジョも彼女」の原型となる漫画「彼女がいるのに、別の女の子に告白された話」はもともと Twitterや自身のホームページ、pixivFANBOXなどで公開し、その後で同人誌として販売をしていました。
- Twitter: まずは無料で公開し、多くの反応を得られるかどうかを確認した
- 同人誌: 有料(1000円)で販売し、そのアイデアに商品価値があるかどうかを確認した
というステップを踏んだそうです。
これをゲーム開発に置き換えると、
- Twitter: まずは短い動画を投稿し、ゲームルールや面白さが伝わるかどうか、良い反応を得られるかを確認する
- プロトタイプや体験版、アーリーアクセス版をリリースする: 最低限の遊びが楽しめるプロトタイプを完成させ、身近な人にプレイしてもらい感想をもらう。または体験版やアーリーアクセス版としてリリースして多くの人の反応を見る
まずはTwitterにゲーム内容がわかる短い動画を投稿します。その反応が良ければちゃんとゲームとして遊べるものに仕上げてリリースします。
リリースするバージョンを「有料」にすべきかどうかは商品としてのクオリティやゲーム開発者としての実績・知名度にもよりますが、リリースしたゲームをプレイしてもらった結果、良い反応がもらえれば正式版の開発に進む、という方法です。
例えばコミケは「ひとまず遊べるゲームであれば、体験版として低価格(100円くらい)で販売する」という文化があるそうです。コミケで体験版を低価格で売る、というのも1つの方法かもしれません。もしくは比較的参加しやすそうで反応も得られやすそうな「デジゲー博」で販売してみるのも良いかもしれません。
スマートフォン向けのカジュアルゲームであれば、1〜2ヶ月の短期間でストアでリリースを繰り返しながら手応えを確認する、という方法でも良いのではないかと思います。
もしくは “Unity 1 Week” や “UE4 ぶちコン”、”新人フリコン”、”あほげー” など小規模なコンテストに応募して反応をみるのも良さそうです。
コンテストに参加して開発力をアップする方法については以下の記事に書きました。
ゲームコンテストに参加して開発力を上げようまたスマホ向けのカジュアルゲームの場合はTikTokが有効という記事もあるので、カジュアルゲームの場合はTwitterとTikTokで反応を見るのも良いかも知れません(40%近いユーザーが「スマホゲーム」に興味がある、とのこと)
3. 自分の目標やレベルに近いコンテンツを参考にする
人気作品をチェックするのは、「あのマンガが10万部売れるんだったら、自分のこれは7万部くらいかな?」って、スカウターの精度を上げる意味合いが大きいです。頭の中にそういう”ものさし”を作るには、ラブコメに偏らずさまざまなジャンルを読む必要があって、全体的に押さえておくと精度が上がっていきます。
逆に100万部以上売れてるマンガは、ものさしが機能しないんですよね。そこまでいくと一点突破じゃなくいろんな要素が複合的に絡み合って、総合的に売れているので、ものさしになりにくいんです。
なので僕は10万部くらいのマンガを読んでいる時が一番「そうそう、分かる!」って感じます。僕のマンガがそのくらいの部数になりがちなのは、多分そういうことなのかな(笑)。
まずはTwitterでバズる! 『カノジョも彼女』のヒロユキ先生に聞く、売るための分析&アピール術
ヒロユキ先生は、おおよそ 10万部以上を安定して売ることができる作家さんですので、そのあたりの売上がある漫画家さんの作品が参考になるようです。逆に 100万部以上売れている漫画は分析が難しく参考にしにくいとのことです。
これをゲーム開発に置き換えると、自分の実力に近いレベルの作品、もしくはそれより少し高いレベルの作品を参考にすると良さそうです。
例えば、自分の作ったゲームが “100” ダウンロードしかないのであれば、少し上の “500〜1000” ダウンロードあたりのゲームを参考にする……とするのが良いと感じました。
というのも、そのレベルだと 10万や100万ダウンロードされているゲームを参考にしても、分析できる力がなかったり、「自分には真似できない……」と絶望して時間を無駄にする可能性があるからです。
4. ダサくても遊んでもらえるゲームを目指す
ヒロユキ:何年描いていても、です。「この新連載、いけると思うんだけど……どうかな?」って不安な状態で、僕は連載を始めたくないんです。不安を自信に変えるためにも、先にWebで出して、同人誌を出して、自信をつけてからコストをかけていきたい。
そういうお試しをせずに、一発目で連載して大ヒットしたら、そりゃもうめちゃくちゃかっこいい! でも僕はかっこよさよりは実を取るので、見栄は張らなくていい。読んでもらえないかっこいいマンガよりは、読んでもらえるダサいマンガを選びます(笑)。
まずはTwitterでバズる! 『カノジョも彼女』のヒロユキ先生に聞く、売るための分析&アピール術
──先ほどからヒロユキ先生の生存戦略やノウハウを開陳してもらったわけですが、競合相手やライバルを増やすことにつながりませんか?
ヒロユキ:どうなんでしょうね? 僕って、みんなが描きたがるかっこいいマンガは描いてませんから競合しないんですよ。ダサいマンガを描いているので。
──「カノジョも彼女」はダサくないですよ?
ヒロユキ:だって二股するマンガですよ、誰が描きたがるんですか! でもかっこ悪いマンガでも、読んでくれた人たちが楽しんでくれれば、僕はそれで満足なんです。
──あの◯◯を描いた先生ですか!みたいに、作者が尊敬と憧れの目で見られないという話ですね。
ヒロユキ:そういうふうに憧れられて、目指す対象にはならなくていいんです。僕はダサいマンガを描き続けて、自分が楽しんでるので(笑)。
まずはTwitterでバズる! 『カノジョも彼女』のヒロユキ先生に聞く、売るための分析&アピール術
ヒロユキ先生の漫画家としてスタンスは「漫画としてダサくても、多くの人に読んでもらえればいい」といった考え方となります。
「カノジョも彼女」は二股をする話なのですが、ヒロユキ先生は以前にも「マンガ家さんとアシスタントさんと」という漫画を描かかれており、この話は漫画家がアシスタントさんにセクハラまがいのことをするもので、ヒロユキ先生が女性アシスタントさんにそういうことをしてみたいという欲望を反映させた漫画となっています。そういう自身の欲望を「キモい」と自虐しつつも、それを楽しんでくれる人が多いという理由で「ダサくても、そういった漫画を描く」とのことです。
これをゲーム開発に置き換えると、「見栄や体裁の良さ」でゲームを作って誰にも相手にされないよりは、ダサいと思われても多くの人に遊ばれるゲームを作る、こととなりそうです。
自分が好きなゲームを作って開発中は誰にも見せず、特に宣伝もしない。完成するまで秘密主義で、発表したとたんに口コミやメディアで話題となるゲームを作る。
これができれば理想のクールでカッコいいゲーム開発者ですが、残念ながらそれをできるゲーム開発者は一握りのエリートゲーム開発者だけです。
やはり、より多くの人にゲームを遊んでもらうには、何がウケるのかを探るために見た目のクオリティが今一つでもユーザーの良い反応が得られるまで繰り返しゲームのプロトタイプをTwitterに投稿したり、泥臭くてもイベントの出典やプロモーションに手を抜かない姿勢で開発に臨むと良いのかもしれません。
イベントの出典やプロモーションに手を抜かず、ゲーム開発者としては無名な状態から作品をヒットさせた「シロナガス島への帰還」のプロモーション術についてはこちらに書きました。
「シロナガス島への帰還」に学ぶ個人開発タイトルをヒットさせる4つの方法5. 完成を義務化せず「良いものを作る」と考えることでモチベーションを維持する
ヒロユキ:『アホガール』の時、途中で週刊連載をリタイアしちゃったので、同じことを二度もしたくない。週刊連載を義務感でやると、マジで心が死にます。だから『カノジョも彼女』では、自分がしんどくならないように働き方を工夫しています。
──どういった工夫ですか?
ヒロユキ:作画を作業にせず、がんばって良い絵を描こうとしてるんです。今までの僕は、描き上がることを目的に描いてたんです。今は、ちゃんと良い絵を目的に描いてるんです。
──その違いは……?
ヒロユキ:作業で描き終わることを目指すのは、時間はかからないんですけど、つまらない。だからしんどい。
「良い絵を描こう!」って決めた方が、時間はかかるんですけど楽しいんです。良い絵を目指した方が、絵で喜ぶ人も増えるし、良いこと尽くしです。
まずはTwitterでバズる! 『カノジョも彼女』のヒロユキ先生に聞く、売るための分析&アピール術
ヒロユキ先生は、前作「アホガール」のときに過労のため体調を崩していまい、連載を止めざるをえない状況になったそうです。体調を崩した理由として「連載を義務感で続けたため」としています。
ですが現在連載中の「カノジョも彼女」では、そのようなこともなく楽しく連載を続けている、とのことです。楽しく描けている理由としては、「良い絵を描こうとしている」ためだそうです。
「HUNTER×HUNTER」などで知られる冨樫義博先生も「幽☆遊☆白書」連載中にストレスのため連載を継続できなくなったことは有名な話です。
私は画力で人をひきつけたいという絵が好きな人なら誰でも少しはもっていそうな野心を極力おさえてもらっていました。新人時代、荻原一至さんの原稿を当時担当のT氏から見せてもらったからです。正直言って絵では絶対かなわないと思いました。しかし「できれば全部一人で描きたい」という理想はすてられませんでした。幽遊白書の連載中、何回か一人で原稿を上げたことがあります。全てストレスがピークに達している時です。理解してもらえるかわかりませんが、原稿が満足にできないことによって生じるストレスを解消する方法が「一人で原稿を上げること」なんです。
(中略)
残念ですが幽遊白書のキャラクターを壊していくか、読者があきるまで同じことをくり返すかしか残っていませんでした。この本でやったようにキャラを壊す試みはジャンプでは当然ボツになりました。同じことをくり返すに耐え得る体力も気力ももうありません。そこで常々思っていたことを実行しました。「もしジャンプで長期連載ができたら自分の意思で作品を終わらせよう」
連載を終えて 〜振り返れば敗北宣言
冨樫義博先生も、週刊連載を続けるためという義務感で頑張ったものの、「自分が満足できる原稿を描くための時間がない」というストレスのため自分から打ち切りにするという選択を行いました。「アホガール」連載終了直前のヒロユキ先生も似たような心境だったのかもしれません。
少し長くなりましたが、ゲーム制作についても長期間の開発作業となる場合、「ゲームを完成させる」という義務感だけで継続させるのは大きなストレスとなり、それが心への大きな負担となると開発が中断してしまうリスクがあります。
それを回避するための方法として、
- 完成までの回り道となるけれども「少しでも良いものを作ろうとする」ことでストレスを減らす
- 開発中のゲームの進捗に影響なくても「自分が楽しいと思える遊びや演出」を入れてみる
といった「ゲーム完成への進捗は増えない」「完成までの回り道になる」けれども、開発者が「作っていて楽しい」と思えることを積極的に取り入れていくことが、結果として開発を継続させるために必要なことなのかもしれません。
参考
今回の記事はこちらのインタビュー記事を参考に作成しました
ヒロユキ先生は前作「アホガール」から現在連載中の「カノジョも彼女」までの間に、創作論を自身のYouTubeチャンネルで語ったりしていた時期がありました。
そして、その創作方法を漫画で描かれており、ヒロユキ先生の創作に対する考え方はこの本が参考になります。
主に漫画におけるキャラクターの動かし方に関する話が中心となりますが、「リアクション」についての話はキャラクターの魅力の作り方、面白いストーリーの作り方についても応用が効くのではないかと思っています。
個人的な話ですが、私がストーリーを作れるようになったのはこの本を参考に4コマ漫画を作ってみてキャラクターの動かし方を学んだおかげでした。なので、ゲーム開発からはすこしズレますが、物語を書いてみたいけど完成させられない……という人に参考になるのではないかと思い、紹介させていただきました。