「シロナガス島への帰還」に学ぶ個人開発タイトルをヒットさせる4つの方法

個人的に気になっているタイトル「シロナガス島への帰還」の作者である鬼虫兵庫(おにむし・ひょうご)氏のオンラインセッション「個人開発ADV「シロナガス島への帰還」を数万本売り上げた超実践的戦術!」がまとめられていたので、個人的な感想をまとめてみました

1. マーケティングに労力を惜しまない

もしパッケージがしっかりしたゲームを,安価で売れれば,コミケで注目を集めるのではないだろうか。そう考えた氏は,商業作品を参考にパッケージを作り,ブースの設営方法も大手サークルを参考にして工夫し,コミケに臨んだ。

数万本売り上げたADV「シロナガス島への帰還」のセッションをレポート。個人開発タイトルをヒットさせるために大切なこととは

個人制作であっても、ゲームのクオリティに自信があれば、本気のマーケティングで差別化していくという手法も有効、とのことです。
鬼虫 兵庫氏は、第二回講談社BOX新人賞Stones受賞経験があり、実質プロの小説家でありシナリオの良さに自信があったのではないかと思います。そこでブースの設営やゲームのパッケージで手を抜かずにマーケティングに力を入れたところ、コミケにて体験版だったのも関わらず100本を完売したとのことです。

2. いきなりSteamで販売せずに徐々に知名度を上げていくようにした

(Steamで販売したときに)最初の1週間でコケた場合、挽回するのはほぼ無理と言っても過言ではないです。

個人開発ADV「シロナガス島への帰還」を数万本売り上げた超実践的戦術!

Steamでの販売は「初週での売上」がすべてで、そこで売れなかった場合に挽回することはほぼ不可能、とのことです。

そのため、まずは知名度を上げることが大切と考え、細かくリリースを行い徐々にファンを増やしていったとのことです。またTwitterで定期的に開発状況を発信していくことで、フォロワーを増やして知名度をあげていったそうです。

  • 少しずつリリースを繰り返し知名度を上げていった
  • Twitterで開発状況を定期的に公開することでフォロワーを増やしていった

3. イラストを外注してTwitterでの訴求力を高めるようにした

インディーズゲームに興味を持つ可能性のある人へのアピールは,魅力的なイラストがもっとも有効なのだという。

数万本売り上げたADV「シロナガス島への帰還」のセッションをレポート。個人開発タイトルをヒットさせるために大切なこととは

Twitterのフォロワー数を増やすには「イラスト」が最も効果的とのことです。そこで鬼虫氏は魅力的なイラストを描ける絵師さんに依頼して、イラストを描いてもらったそうです。

ただ、これはどちらかというと趣味的な(自分が見たいイラスト?)ものだということで、フォロワー数が増えたらラッキーぐらいのものだったのかもしれません。

4. 個人による動画配信や2次創作をほぼすべて許可した

すでに知名度があるタイトルの場合には実況動画はネタバレで機会損失となりますが、知名度がない状況だと作品を知ってもらう良い機会になるとのことです。

  • その実況を見た人は作品のファンになってくれる可能性がある
  • 作品の知名度が上がる

個人的なまとめ

個人開発をしていると大変な作業を一人でこなすことになるので、どうしても「この大変な労力の対価 (お金) をすぐに得たい!」と考えがちです。

ですが、そこを我慢して、売れるための施策を打ち徐々に知名度を上げて売るための基盤を作るのが大事……ということを改めて感じました。

以下は、ユーザーがゲームを買いたいと思うまでのマインドフローです。

マーケティングのマインドフロー

良いゲームを作るのは当然ですが、最初のステップとして、まずはユーザーに「認知」されないとゲームを売ることはできない、ということを示した図となります。

シロナガス島への帰還

個人的に好きなジャンルである「ミステリーサスペンス」ということでかなり期待しています。

Steam版はすでに購入済みなのですが、Switch版が発売されるとのことでそれを待ってからプレイしようと思っています。

追記

気になって調べたところ、面白い情報がたくさん出てきたので、もう少しまとめてみます。

鬼虫兵庫氏の経歴

Amazonの著者情報を見たところ、以下の経歴となっていました。

作家。島根県出身。

第二回講談社BOX新人賞”Powers”Stones受賞。

編集長として「創作系マガジン暫-SHIBARAKU!-」「TORImag とりまぐ!! 」などを発行。また、元Windowsチーフアーキテクト中島聡氏と協力して開発したiPadアプリ「暫-SHIBARAKU!-」はiTunes無料総合ランキングで1位を記録。

小説、イラストなど様々な創作物を手がける。

鬼虫兵庫:作品一覧、著者略歴

雑誌編集長の経験があり、プロデュース力がある方なのでは……と思いました。

実際に、次に紹介する記事では、SNSでのセルフプロデュースの重要性を話されています。

Steamで2万本販売したときの記事

完全個人の開発者が、いかにして2万本のヒット作をなしえたか――『シロナガス島への帰還』開発者インタビュー

「セルフプロデュース」が大切

自己IPを抱えて、更に自己プロデュースが得意な人だと、それはかなりの強みになるように思います。今はSNSなどを利用したセルフプロデュースの最盛期とも言える時代ですからね。あと、周りで活動している商業小説家が途中で打ち切りにあって、物語が途中で終わるという流れを見て、その型式は僕には合わないと思った点も大きいです。僕は死ぬまで自分のキャラや物語を好き勝手にやりたいタイプでしたから。

完全個人の開発者が、いかにして2万本のヒット作をなしえたか――『シロナガス島への帰還』開発者インタビュー

商業作家になったからといって安心はできず、セルフプロデュースをして活路を開いてくことが大きな強みになるとのことです。またそれが自分のやりたいことだというのが、継続してプロデュースを行えた原因かもしれないと思いました。

「ゲーム」という形式が自身の創作に一番マッチしていた

鬼虫:まず、技術的な面でゲーム制作にたどりついた流れとしては……僕は本当はアニメを作りたかったんですが、技術力的にソロでのアニメ制作は無理。絵を描くのが遅いのでは漫画もなかなか難しい。小説だと書けるけど、かといって小説だと僕の考えている光景は半分くらいしか伝わらない。

となると能力的に一番スタイルに合っているのはゲームだろう。という流れでしたね。先ほども語ったように、元々ADVは好きなジャンルでしたし、ゲームだとかなり早い段階でビジュアルが完成していくので、モチベーションが維持しやすいのも大きかったです。

完全個人の開発者が、いかにして2万本のヒット作をなしえたか――『シロナガス島への帰還』開発者インタビュー

この話、すごくよくわかります。

  • 漫画・アニメ:たくさんの絵を描く必要がある。そして画力が必要となる
  • 小説:情景描写や人物描写など高い文章力が必要

物語を描きたいだけで、これらのスキルを身につけるのはかなり大変です。その点、ビジュアルノベルの場合は少ない絵素材でキャラクターや情景描写が可能となります。また会話主体で進むので、キャラクターと対話しながら話を作っていくことも可能です。

趣味でお願いしたイラストレーターさんが宣伝までしてくれた

鬼虫氏はイラストも描ける方なので、イラストレーターさんの知り合いがいたことも知名度向上にプラスに働いたようです。Twitterではイラストがフォロワー獲得の大きな原動力となります。

また僕自身がイラストを描くこともあり、イラストレーターの方々と知り合いだったり、Skeb(有料でのイラストコミッションサイト)などでイラスト制作をお願いした流れでゲームをプレイしてくださったイラストレーターの方々が結構いて、そこからの口コミで情報が広がった面もありました。僕的には、純粋に自分の好みのイラストレーターに好きなキャラを描いてもらいたいという考えしかなかったのですが、中にはゲームをプレイして気に入ってもらえた上に、宣伝までしてもらえたのは嬉しい誤算でした。

完全個人の開発者が、いかにして2万本のヒット作をなしえたか――『シロナガス島への帰還』開発者インタビュー

そして、さらにSkebでお願いしたイラストレーターさんもゲームを気に入ってくれて宣伝をしてくれた効果も大きかったとのことです。

特に見返りを求めず、自分がそのイラストを見たいという純粋な動機が、偶然売上につながったというわけです。

IGNによる「個人開発ADV「シロナガス島への帰還」を数万本売り上げた超実践的戦術!」の講演レポート

「個人制作でもしっかりしたゲームを安く売れば注目されるのでは?」という発想

ダウンロード販売の市場では「1000円出せば大手企業の名作ゲームが買える」とのことから、あえて500円の価格にしたとのことです。

また「こちらの記事」のコミケ出店時のブースを見るとわかるのですが、敷き布と布ポスターのクオリティが高いです。

こちらのPVも500円のゲームとは思えないクオリティとなっていて、「やはりプロデュース力が高すぎでは…」と思ってしまいます。

ただ、こういったこだわりをしたのも「ビジュアルノベル」というジャンルは面白さが伝わりにくいため、どうやって売り出すべきかを考え抜いた結果とのことです。

鬼虫氏はアドベンチャーゲームがメジャーなジャンルのゲームと比べて衝動買いしづらく、ユーザーがぱっと見でゲームの品質を判断しづらいため、見た目や価格で勝負したことが功を奏したと分析した

【IDC講演レポート】個人開発ADV『シロナガス島への帰還』を6万本売り上げた超実践プロデュース術とは

Steam配信後も継続的に売れる施策を行った

販売本数の推移は、鬼虫氏のブログを確認したところ、以下のように公表されていました。

  • 2020年3月:Steam版配信開始
  • 2020年7月:1万本の売上を達成
  • 2021年3月?:2万本の売上を達成 (※)
  • 2021年6月:3万本の売上を達成
  • 2021年7月:5万本の売上を達成
  • 2021年8月:6万本の売上を達成
  • 2021年11月:7万本の売上を達成

(※2021年3月のインタビュー記事が2万本達成後と思われることから推測)

ブログを確認するとSteamでの配信後も、

  • 大型アップデート
  • フリー素材のBGMからプロの作成した曲にアップデート
  • 英語版の対応
  • 口パク対応
  • イラストや漫画の定期的な投下
  • Steamトレーディングカード対応

などこまめなアップデートを行い、継続的な話題を提供していたのが長期に渡って売れ続けた要因となるのかもしれません。

秘密主義のプロモーションは売れない

あるいは、イベントの参加ができなくともTwitterなどSNSでフォロワーを増やして自らの情報発信力を高めておくことが大事だとも強調した。個人のインディーゲーム開発者は孤高の職人気質であることが多く、開発中のゲームを秘密にしてリリース間近のタイミングでゲームの情報を公開することが少なくない。鬼虫氏によれば、そういった秘密主義のプロモーションはまず売れないのでこまめに情報発信をしたほうがよい。

【IDC講演レポート】個人開発ADV『シロナガス島への帰還』を6万本売り上げた超実践プロデュース術とは

これは開発期間や得意なゲーム開発スタイルによるかもしれません。例えば2週間〜1ヶ月の周期で1本ゲームをリリースする「カジュアルゲーム製作者」の場合はプロモーションよりもリリース速度(たくさんのゲームをリリースする。流行に乗った題材を誰よりも速くリリースする)が重要なので、当てはまりにくい気がしています。

鬼虫氏はおそらく「アーティスト」タイプで、徹底的な作り込みをされる方 (製作期間はおおよそ1年半とのことです) なので、継続的なプロモーションが必要と考えたのかもしれません。

流行に流されず長い時間をかけて自分の好きなゲームを作って売り込みたいと考えている方には、その作品の良さをしっかり売り込むために、こういったプロモーションをしていくことが必要なのではないか……などと思いました。

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