ゲームを作るための12の習慣

「脚本を書くための101の習慣」という本があります。

これは、一流の脚本家、小説家にインタビューを行い、彼らがどういった行動パターンで優れた脚本を書いているのか、ということを解き明かした本となります。

この本は、脚本家や小説家に向けて書かれたものですが、ゲーム開発にも応用できる部分もいくつかあるので、一部を私の解釈を加えて紹介したいと思います。

情熱

001: 極めて独創的になる

よくある表現になっていないかチェックすることを自分に課す。執筆途中に手を止めて、自分に「同じことを20通りの方法で表現してみろ!」と迫る。この2人の登場人物が出会う最高の方法を20通り。追跡の方法を20通り。

アイデアを出せば出すほど場面は生きてくる。

素晴らしくなくてもいいから、ともかく20通りだのアイデアを捻り出していくと、9番目か10番目に光るやつが出る

「最初の思いつきでいいや」って言わないことが大切なんだ。

脚本を書くための101の習慣


ある漫画家さんは、アイデアをいくつか考えたら、漫画に詳しくない友達と話してみるそうです。そして、その友達が思いつくようなアイデアであれば「ありきたりのアイデア」と判断してボツにするとのことです。

斬新なゲームのアイデアを思いつくには、繰り返しの試行錯誤が必要になるのかもしれません。最初に思いつくのは、どうしてもありきたりなアイデアになってしまいがちだからです。

ゲームで言えば、一つのジャンル、例えばシューティングゲームであれば、それをいくつかのバリエーションで作ってみるのが良いかもしれません。

個人的には、小さくたくさんのゲームを作ってアイデアを試すには、1週間に1つゲームを作る「Game A Week」というチャレンジをオススメします

004: いつも観察する

描写するためには、観察しなければならない。ほとんどの人は、身の周りで起きていることの半分も見ずに人生を過ごす。人生や人間性の細々としたことを観察するには、日々日常は忙しすぎる。そう言うわけで、素人の脚本家は自分の目で観察した実世界からではなく、昨日見たテレビ番組とか一昨日に見た映画を参照したりする。

一流の脚本家は他人を観察する習性を身につけている。そして人がどのように話すかを聞き取る耳を、人がどのように振る舞うかを見る眼を養っている。自分を取り囲む世界を微細に把握し、鮮やかに世界を視覚で切り取りながら、静かに頭の中でメモしているのだ。カフェで、空港で、食堂で。いかなる場所でも周りの人を見つめ、聞き耳を立てて人の会話を盗み聞かずにはいられない。

ようするに彼らには、”注意力” がある、ということだ。

脚本を書くための101の習慣

脚本の世界では、人間観察が重要で、しっかり人間が描けているかどうか、などが評価の基準となります。
人がどのように行動し、どのように会話をして、どのようなリアクションを取るのか、などを観客が納得できる表現で描く必要があるわけです。

これをゲームに応用すると、ゲームの面白さは「ルール」とそれにより得られる「効果」と私は考えています。
ゲームを作る人が観察すべきは、世の中にどのような「ルール」があり、それがどのような「効果」を発生させているか、というところにある気がします。

もしくは自分の作ったゲームの「ルール」がどのような「効果」をもたらしているか、しっかり考えることにあると思っています。

例えば、
「敵の弾を跳ね返すことができるルールは、”弾を避ける” という面白さを損なっているかもしれない」
「いつでもダンジョンから帰還できる仕組みは、快適であるけれども緊張感を薄くしてしまっているかも」
というように、客観的な視点で自分のゲームを見ることができると、よりゲーム作りは面白くなるかもしれません。

007: 自分の才能を信じる

才能があるかどうかというのは、青い眼を持っているかどうかというのと同じ。目が青いというだけでその人を尊敬するわけではない。

私は、自分の才能で何かを成し遂げる人を尊敬する。

俳優:アンソニー・クイン
脚本を書くための101の習慣

世の中には優れたゲームはたくさんあります。それと自分のゲームを比較すると、自分ゲームがいかにチープであるかということに気がつき、ひどく落ち込むことがあると思います。

高く評価されているゲームは、洗練されたゲームグラフィック、スケールの大きい世界観、感動のシナリオ、魅力的なキャラクター、奥深いゲームデザイン、などを兼ね備えています。それらとの差に落胆するかもしれません。ですが、あなたの作っているゲームは、あなたにしか作れない要素が何かあるはずです。

そこには何か特別なゲームの面白さが潜んでいる可能性があります。それを信じてゲームを作っていくことが大切なのではないかと思います。

013: 願望より目標を持つ

どうやっても書く時間がとれない。どうしても書くことより楽しいことを優先させてしまう。そのような場合は、プロの脚本家への道は諦めた方がいいのかもしれない。

でも、あなたが本気で脚本家として生きていく覚悟を持ち、書くためには何でもすると思っているのなら、これを知っておいて損はない。

やる気” と “実際にやること” は全く別のものだということを

脚本を書くための101の習慣

やる気があったとして、実際に行動して計画を立て作品を完成させるには、別の能力が必要とのことです。

ゲームエンジンでゲームを作るようになって、昔よりは簡単にゲームを作れるようになりました。ですが、やはりゲームを作るには、最低でも数十時間から数百時間を費やす必要があります。それだけの継続力を養うにはやる気だけではどうにもならない、と私は解釈しました。

そうなると大切なのは、ゲーム制作はそれだけの時間を費やすほど価値があるもの、という定義が必要になります。「自分の作りたいものはゲームでしか表現できない」といった突き詰めた理由を見つけるために、深く思考を巡らす時間も必要なのではないかと思っています。

創造性

029: 道具に慣れる

自分の考えを伝えるために必要な道具。鉛筆、ペン、絵筆、コンピュータ。そして紙、キャンバス、プリンター。”これを使えば成功する” という魔法の道具は存在しないが、以下のインタビューからわかるのは、
皆それぞれお気に入りの道具があるということだ。

重要なのは、皆、自分が使う道具になれていて、だからリラックスできて、つまり創造力も高まる、ということなのだ。書くことの邪魔にならなければ何で書いても構わない。

「最新の脚本ソフトを使えば勝てる」と信じることで書けるのであれば、それだって結構なのだ。

脚本を書くための101の習慣

ゲーム開発にとって環境選びはとても重要です。自分の好きな有名なゲームが使っている環境であれば、それを使うことで自分にも同じようなゲームが作れる! と思い込むことも時には大切かもしれません。

ただ、作っていて不便に思う場合は、思い切って環境を変えてみても良いかもしれません。何が手に馴染むかは人それぞれだと思いますので、より自分の考えを形にしやすい環境を選ぶ、構築していくことが大切なのではないかと思います。

規律

031: 定期的に書く

私は創作心に火が点いた時にしか書かない。
幸いにも、毎朝9時になれば必ず私の創作心に火が点くのだ

作家:ウィリアム・フォークナー

脚本を書くための101の習慣

創作というのは、何日かそれについての作業をしないでいると、手をつけるのに気が乗らなくなります
なので、毎日続けるという姿勢がとても大切になります。

個人的にオススメなのが、1kg程度の軽いノートパソコンを持ち歩くことで、それなりの性能であればゲーム開発を行うことができます。
また、プログラムを書く気がしないのであれば、ExcelやPowerPointなどで、設計やゲームシステムに関する仕様をまとめるという軽い作業をするのも良いです。
ノートパソコンがなかったとしても、コンビニの100円ノートに、今作っているゲームの分析をまとめたり、資料をまとめたりすることはできるはずです。
常に自分のゲームについて考える、ということが重要ではないかと思います

038: 恐怖心を手懐ける

物書きたるもの “恐怖心” と向き合わないわけにはいかない。「酷い脚本になってしまったらどうしよう。批判されたらどうしよう。才能不足だったら……」。でも、書き続けるのだ。

(中略)

完璧にするのは後回しで構わない。ともかく書くこと。脚本家の故ソル・サックスが言ったように「書いていない傑作よりも、書いてしまった駄作の方がマシさ」。

脚本を書くための101の習慣

作品は完成して世の中に出さないと、良い評判はともかく悪い評判ですらも手に入りません。他人の評価を気にしすぎないのはどうかと思いますが、気にしすぎて作品を完成させられないのは避けたほうが良い、とのことです。

私個人の話となりますが、脱出ゲームをストアに初めて出したところ、技術力不足のためか辛辣な批判のコメントがいくつかつきました。ですが商品として考えた場合、確かにその部分は品質的に欠陥であり、次回作はもう少しクオリティを上げるようにしなければ……という目標設定が可能となりました。

自分が納得行くクオリティの作品でなくとも、次の作品の改善点として手を加えればよく、常に完璧を目指す必要がない……と思った次第です。

043: 時間を作る

「書きたい!」という情熱を感じたら、プロの脚本家は死んでも書きたいと思うのだ。しかも何度でも。もし昼間別の仕事をしているのなら、プロは時間を捻り出して書く。早起きして時間の前にまたは1日が終わってから夜遅くなっても書くのだ。

脚本を書くための101の習慣

プロの脚本家は書くために「時間がない」とは思わない、とのことです。書きたいならなんとしてでも時間を捻り出します。

ゲーム制作もそれと同じで「時間がないからゲームが作れない」と言っている場合、そもそも興味がない題材であったり、時間をかけてまで取り組むゲームと考えていない理由がありそうです。

忙しくても、それでもしっかり時間をかけて取り組めるような魅力的なゲーム(作りたいと思うゲーム)を作るべきなのかもしれません。

044: 予定を組む

自分との予約を入れてみよう。絶対書く、という時間を決めるのだ。実際にカレンダーに書き込んで、予定にしてしまうのだ。こうするとサボることもできない上に、定期的に書く習慣がつく。やがて時間がくると脳が自然に執筆モードに入れるようになる。

脚本を書くための101の習慣

書くためのスケジュールはありますが、日程に合わせて書くということはしません。

(中略)

予想した日にその場面が書けなかったら、すぐに予定を直します。ここが重要です

ロン

予定を立てるというのは、計画した通りに作業を進めるためではなく、自分との約束をして書くための習慣をつけるため、ということのようです。

予定通り進まなくても悲観せず予定を立て直し、予定より先に終わったとしても前倒しに予定を修正するとのことです。

個人開発は自由にスケジュールが組めるので、スケジュールを決めないとどうしてもだらけてしまいがちです。それを回避するには実現可能なスケジュールを立てて、それに従って作業をするけれども、定期的にそれを見直す時間が必要……となるかもしれません。

物語の職人芸

058 良い書き方を理解する

成功する脚本家にまず必要なのは、書かれたものの良し悪しを判断する眼力だ。

(中略)

これを見分ける洞察力を養うためには、例えば人の脚本をたくさん読んでみるのも良い。傑作を読んで最高のものに刺激を受けるだけでなく、最低の脚本も読んで人の失敗から学ぼう。

脚本を書くための101の習慣

よく書かれた脚本というのは、大抵の場合どこか違うんだ。特有なんだよ。脚本を読んでいるのに映画の感触がするんだ。何をどう描写するのか “わかっている感じ” がするんだよ。

ニコラス

よくない脚本を読んで気づくのは、いろいろ説明しすぎるんですよ。登場人物がペラペラ喋りすぎるんです。客がもう見て知っていることを、また台詞で言ったりね。見せればいいのに台詞で言うなんて飽きあきですよ。

エリック

良いゲームを作るには、まずは良いゲームゲームから学びます。また良いゲームだけでなく悪いゲームから学べることもある、ということです。

良いゲームを作るにはテストプレイが大切だと私は考えていますが、それ以前に自分で「悪いところ」に気がつける眼力を身につけることも大切だと思っています。それができないと、基本的な部分のミスをテストプレイで指摘されることとなり、テストプレイにより得られるものが減ってしまう可能性があるような気がしています。

売り込み

073: 大切な出会いを逃さない

脚本の品質ほど決定的ではないにしても、いつか自分の作品を用語し、後押ししてくれる人脈を築いておく習慣はやはり重要だ。コネ作りというのは、いつかお互いを助け合うための種まきのようなものだと考えればいいだろう。知り合った人たちの目標達成の手助けをしてあげると、彼らもあなたがゴールを決めるのを助けてくれるというわけだ。

脚本を書くための101の習慣

ゲームを売るためには、商品としての品質が決定的だとしつつも、人との付き合いが売れるためのきっかけになる、とのことです。

今の時代、デジタルで完結してしまうので、人との関わりはなくてもヒット作品は作れますが、人とのつながりを持つように意識すると思いがけないところから助けが得られることもある……、ということもありえそうです。

脚本家四訓

093: 途中で投げない

仮に私があまり面白くなくて、どうしたって売れない脚本を書き始めてしまっても、絶対に書き終える。書き出した途端に同じような映画が公開されて、絶対売りようがないとわかっても書き終える。最初から最後まで書き通すと、いろいろ勉強になるからね。

スコット

いちばん大事なのは、どんなに苦痛でもどんなに終わらせるのが大変でも、下記終わらせるということですよ。秘訣も秘密もありません。終わりまでいく、それだけです。

エリック

作品は完成させて世の中に出ないと、良い評価も悪い評価ですらも得ることができません。一般ユーザーの目に触れないということは、行った作業に対して何も得られない、ということになります。

ゲーム開発における80対20の法則として、ゲームの残り20%を完成させるためには、全体の80%の労力が必要になるという話があります。つまり完成させられないということは、最後の詰める部分で得られる経験を捨てている……友言えます。

ですので、たとえ、面白くなくてどうしようもないゲームになったとしても、完成させることが大切、と言えるかもしれません。

参考

今回の記事はこちらの本を参考にしました。

ただこの本には、この記事には書かなかった小説家や脚本家が何を悩んでそれをどう解決したかのヒントがたくさん書かれていて、スランプになったときに読んでみるとやる気が出ます。

是非とも手元においておくと良い本かな、と思います。