目次
1.はじめに
ここでは桝田省治さんの発想法やゲームデザインの考え方について紹介したいと思います。
なぜ桝田省治なのかというと、ゲームデザインに関する情報を数多く発信していて、「リンダキューブ」「俺の屍を越えてゆけ」などそれなりに評価されているゲームを作ったという実績があるからです。せっかくなのでこれをゲーム製作に活かそう! というのがこの文章の目的です。
なお、情報源としては、
- Webサイト:「Alpa・MARS PROJECT」のCOLUMN
- 書籍:「ゲームデザイン脳 ―桝田省治の発想とワザ― 」
を参考にしています。
2.コンセプト主導のゲームデザイン
桝田さんのゲーム作りの最大の特徴は「コンセプトを核に必要な部品を調達する」ということを徹底されていることです。例えば「俺の屍を越えてゆけ」では「曾孫の顔を見て祖母の感動をちょっとは味わってみたい」というコンセプトを元に、それを成立させるシステムを作るために以下の手順を踏んでいます。
- 普通に世代交代を実装すると、曾孫の顔を見れるようになるにはプレイ時間がかかる
- 「短命の呪い」という設定にして世代交代の周期を早回しする
- “世代交代”から連想されるキーワードを羅列し、考えうるドラマを洗いだしておく
- ドラマ(例えば親の仇を討つ)を成立させるために、階段状のレベルデザインにする
個人的には俺屍の最大の特徴は、「キャラクターロストの早回し」にあると思っていますが、そのゲームシステムは「世代交代の感動」を味わうための、後付けのものにすぎないということです。そしてそのシステムが生み出すドラマや設定も、コンセプトを成立させるための部品の1つでしかない、と考えられています。
高山みなみさんや樹原涼子さん(リンダの作曲家)なんかと仕事をしてて時々あるのは、他のパーツより突出して凄すぎると、申し訳ないけどトーンを落としてくれという話になります。そこだけを見れば完成度を落としてくれと言ってるようなモンなんだけど、全体を考えるとそのほうが効果を望めることもある。(まあ、これも例外があって、他を犠牲にしても暴走させる価値のある部品はエンターテイメントの世界には少なくはない。昔の勝新太郎とかサ。)
桝田省治のシナリオ作法より
いくつかの例外はあるにせよ、性能の高い部品ができたとしても、コンセプトを曲げたりするものは削ることもありうる、ということです。それはトータルとしての評価を重視するためです。
まとめ
コンセプト主導のゲームデザインを簡単にまとめてみます。
- コンセプトを実現するために各部品を選択する
- 部品の性能が高くても、コンセプトからズレていれば採用しない
- 各部品はコンセプトを実現するために集められているので、本来の性能以上の力を発揮する
3.既存の優良コンテンツを分析する
桝田さんは常に効率よく最大の効果を発揮する方法を使ってゲームを作られています。それをよく表しているのが以下の文章だと思います
僕の意見では、普通の人の娯楽に対する普通の感覚は「***みたい」というなんとか想像がつく範囲の楽しさか「***さんが面白いって言うから」という追随だ。日常が大変なのだから、ゲームをしている間くらい「バカ」でいいじゃないと思う。僕は仕事や学校でがんばって、ゲームをしているほんの数時間だけ「バカ」になる人たちの休息時間を全力で楽しいものにしたい。そのためなら、僕は恥も外聞も喜んで捨ててやるし、臆面もなくいいものはパクる。もう一度言う。なんでパクらないんだ? 不思議でしょうがないな。
パクりに関する個人的見解より
桝田さんは既存の優良コンテンツを徹底的にパクる手法を使われています。例えば、
- 桃太郎伝説の戦闘式を作るとき、ドラクエ1・ドラクエ2を徹底的に分析した
- 天外魔境2のシナリオを作るとき、メジャーな映画を繰り返し見て研究した
という実績があります。当てにならない自分の感性よりも、既に評価されている部品を使ったほうが効率が良いということですね。
そして、その分析方法については以下の手順で行うとしています。
- 優良コンテンツを見て、なぜ自分が感動したのか(Why)
- いつ、どこに感動するシーンがあったのか(Where/When)
- それは何の情報が配置されていたのか(What)
- いかなる演出を使用していたのか(How)
ポイントは1つ目の「自分が感動した所を探す」ですね。自分を基準に考えると、分析する動機も生まれやすいですし、自分の感性を使って応用することが容易だと思います。
4.ドーピング・システム
僕らが一番狙ったのは、覚えてらっしゃるかと思うのですがベン・ジョンソンという方がいらっしゃいましたよね。で、「ドーピング」、これをキーワードにバトルのチューニングをやったのですけど、具体的にはどういうことかと言いますと、一発殴って4ポイントしか出ないという敵に対して、ある魔法あるアイテムなりをどんどん使っていくことで、20、30、40、50…、当たり前に出ると。ただしドーピングですから薬が切れた瞬間、あるいは魔法が切れた瞬間、ガクっと終わると。
ニコニコ動画:PCエンジン「天外魔境II 卍MARU」 桝田省治インタビュー
桝田さんは、天外魔境2において「主人公が必死に戦っている感じ」を出そうとして思いついたのが、当時ドーピングが発覚して金メダルを剥奪されたベン・ジョンソンだったそうです。ベン・ジョンソンはドーピングでパワーアップしたものの、それが見つかって失敗した。これは必死な人の見本だ。という経緯で参考にされたそうです。そこから生まれたのが、
- 極端なパワーアップができるが、その代わりに呪いとも言えるデメリットが存在する
というシステムです。
例えば、攻撃力が高いがその分防御力が下がる剣、というようなものですね。ここでは天外魔境2でのお話ですが、リンダキューブや俺屍でも似たようなシステムを採用しています。
- 捨て身アタック:自分の守備力を削って攻撃力に転化する
- 奥義:健康度を削って強力な攻撃をする
などですね。このような選択肢を用意することで、プレイヤーはどのメリットを重視して、どのデメリットを甘受するのか、という選択を迫られることとなります。それによりプレイヤーに遊び方を委ねることができます。また、桝田さんはこの選択肢を数多く用意するので、非常に遊び方の自由度が高く何度も遊べるゲームとなっています。
「リンダキューブ」や「俺屍」が発売後10年以上たった今でも新しい遊び方が発見されているのは、このあたりに秘密がありそうな気がしています。
5.チェックリストを作る
ここに書かれていることは戦闘部分の話だが、「面白いと感じる”ゲーム”の条件」と言い換えてもさしつかえないほど、普遍性汎用性が高く、僕にしては珍しく本当に役に立つことを書いていると思ったからだ。どれくらい役に立つかと言えば、新しい企画の仕様を詰めているとき、僕自身がこのメモに照らし合わせて実際に使っているくらいにだ。なので、現在なんらかの形でゲームを制作している方は、チェックシートにどうぞ。この条件をパスすれば、少なくとも”クソゲー”とは呼ばないはずだ。
ゲームデザイン脳 182ページ 「思考のレッスン その3 面白いと思う戦闘の条件」より
桝田さんは自分専用のチェックリストを持っていて、それを基準に企画の仕様を詰めていくそうです。そして、そのチェックリストの項目として、
- バランス:敵味方の戦力バランスは、プレイヤー側がやや有利
- 情報:プレイヤーに対して充分な情報が提示されている
- 参加意識:プレイヤーが能動的・意識的に行動を選択でき、その結果が反映される
- バリエーション:戦闘の条件にバリエーションが多く、戦闘が単調にならない
- 操作環境:分かりやすく、レスポンス・テンポがよい操作性
- リターン:戦闘のリスク、戦闘前の投資に見合うものが報酬として得られる
- 戦闘の位置づけ:戦闘以外のシステムと Interaction (相互作用) している
- 演出:戦闘の臨場感を演出している
という8項目を用意しています。
確かにどれも「なるほど」と思わせられる項目ばかりです。こういった指針があったからこそ、桝田さんのゲームは完成度が高いものが生まれてきたわけですね。
ただ、ですね…。これは桝田さんが考える面白いと思う条件でしかないと思うのです。桝田さん本人だからこそ、このチェックリストは活用できたのではないかと思います。
これは桝田さんの考えではありませんが、私は自分で考えた自分専用のチェックリストを作ることが大切なのではないかと思います。自分が考える面白いゲームの条件、どのような条件が成立すれば面白いのか…、それはきっと人それぞれだと思います。ガチャプレイのゲームが好きな人もいれば、そういったプレイが好きでない人もいるからです。またそういうリストを作れば自分だけの個性を発揮することも可能になると思います。
この記事は「ゲームの修羅場4」に「桝田省治論」として投稿したものとなります。
桝田省治さんのゲーム「リンダキューブ」「俺の屍を越えてゆけ」に興味があればとても勉強になる本です。