今回は、80歳を過ぎてなお現役、という恐ろしいバイタリティーを持つ富野由悠季監督の創作術を解説します。
・YouTube – 富野由悠季監督「鬼滅潰す、エヴァ潰す」(2021.04.13)
まだ生きてて新作を作れるんだったら、鬼滅潰しにいくとか、エヴァを潰す、ってことを平気で言うわけよ。
そのくらいに思わないと、80過ぎてさ、テレビアニメの仕事なんてやってられないよ
『林修の今でしょ!講座』今、アニメでしょ! 〜プロが選ぶ!日本のアニメの歴史を変えたすごいアニメ14〜
富野監督は80歳という高齢ながらも、2021年6月 に「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」という新作映画を公開しました。
なぜ80歳を過ぎても新作アニメ映画を制作することができるのかというと「未だ他の作品よりも上を行き、No.1 を目指すことを心がけている」からです。創作全般に言えることですが、他の方の作品を見て「自分ならこれより面白いものを作れる」といった意識は創作のモチベーションにつながると思います。
なお富野監督のフォローとなりますが、監督自身は自分の今まで作った作品にも満足しておらず、自分の過去作品を「あれはクソだね」と容赦なく切り捨てています。他人の作品を厳しく言うだけでなく「自分にも厳しい」というストイックな姿勢で制作に臨んでいるようです。
富野監督「宮崎監督作品は全部見てます」
ーー観たら、やっぱりそれにインスピレーションされるというか、これいいなって思う……
富野監督「何言ってんの。全肯定したらダメです。全否定して見なくちゃいけない。自分がクリエイターでありたいと思ったら、やっぱりそう思わなくちゃ」
ーー「全否定」で見る…?
富野監督「そう、コピペやったら最後でしょ」
ーーそんないつも全否定して見るセンセイが、このアニメは感銘受けたなってのはあるんですか?
富野監督「あるわけないじゃん」
ーー……。自分のアニメに対してはどうですか?
富野監督「あぁ、かなり酷いもんだと思っている。映画として観たときにあまりにも作りが粗雑すぎるんで、クソだよね」
ーーそうなんですか…?
富野監督「その気分がないと、自分の作品を全肯定するとどうなるか。次の作品が作れません」
巨匠が語るクリエーターの世界
- 常にNo.1を目指す
- もし結果が出てもそれに満足しない。それの上を行くことを心がける
個人的な意見となりますが、作品を作っている間は「No.1」を目指すことは大切だと思っています。ただ作品が完成した後はその考えを捨てて「オンリーワン(他の作品との差別化・独自性)」を達成できれば、結果はあまり気にしないのが良いと思います。というのも「No.1」を目指してそれを達成できることはまれですので、あくまで目標の基準として「No.1」を設定することにとどめておいたほうがいいのかな、と思っています。
やりがいや安定は自分で作るもの
・冨野由悠季 この野郎!という気持ちを持て
ーー富野さんが仕事を選ぶときに何をベースに選びましたか?
富野監督「僕はアニメの仕事なんてやりたくありませんでした。(中略)僕にはそういう職業にしかつけなかったんです、勉強ができなかったから」
ーー他ができることがなかったら、しょうがなくアニメの仕事を選んだということでしょうか?
富野監督「もちろんです。(中略)半年ぐらい手塚先生の仕事を見ていましたが、漫画家には映画の仕事がわかってない。漫画の絵しか興味がない連中。映画を知らない人たちと映像作品を作っていて死ぬほど情けなかった。
それで決めたんです。絶対に映画にしてやるぞ、って。当時は映画は不況の時代だったけれど、僕はフィルムをいじりたかったから」
ーーよくそれで続けられましたね……
富野監督「あのね、ハングリー精神とはそういうことなの。そういうところ(恵まれない環境)で『この野郎!』と思う足場を持たなくちゃいけないの」
『真剣中年 しゃべり場』NHK教育 x フジテレビ 3月22日放送
富野監督は、日本大学芸術学部映画科を入学・卒業して、本当は映画業界を目指していたそうです。しかし、大手映画会社はテレビに需要を奪われていて映画不況の時代であったため映画業界に入ることができなかった、とのことです。
そこで仕方なく「虫プロ」に入りました。そこでは映画のことを知らない人たちばかりに絶望したそうです。ただそういった自分が望まない環境であっても「この野郎!」という勢いで乗り越えていかなければならない……とのことです。
なお、ここで討論されていたのは「安定」と「やりがい」のどちらが大事なのか? ということです。それに対して、『「安定」とか「やりがい」は自分で作り出すもの』ということが富野監督の主張となります。
ゲーム制作においても、ゲームを作らない理由はいくらでも思いつきます。
- ゲームを作っても、他に面白いゲームはたくさんあるから自分が作る意味なんてない
- ゲーム制作よりも人生に大切なことはたくさんある
- ゲーム市場は飽和しているから、ゲームを作って暮らしていくなんて無理
ですが、本当に自分がやりたいことであれば、何年、何十年かかってもその土台を作っていくべき、ということです。
なお富野監督の経歴について補足すると、虫プロに3年勤めたあとフリー(1967年〜)となり、機動戦士ガンダム(1979年)というヒット作に恵まれるまで、なんと12年かかっています。(虫プロ時代を含めると 15年)
これに関連する内容として、次に「下積み時代が大切」ということについて語られている動画を紹介します。
下積み時代に大切なこと
・Gのレコンギスタラジオ 富野監督が下積みにおける大切なことを語る【文字起こし】
ーー富野監督には厳しい下積み時代があったとお聞きしたのですが、その時のご心境、将来の見え方を教えていただきたいです。
富野監督「よほど恵まれた人でない限り、だいたい下積みがあるものです。そこで大事なことは『我慢する』ということです。その次に大事なことは『継続する』ことです。
途中で投げ出してしまったら、完成させてなければ、良い評判はもちろん、悪い評判でさえも出てきません。途中で投げ出したら、評論されることもありません。作品の価値を定めることができません。
だからよかろうが悪かろうが関係なく、自分の思いが込もっていようが込もっていまいが、とにかく嫌でも、終わるまでやってみせるという継続する力がなければ、人は評価してくれない、ということです。
だから大事なのは『飽きずにコツコツやる』ということに尽きると思います。
ですから若いときにはその忍耐力をつける。その忍耐力をつけるには『自分に合っているかもしれない』っていうものを見つける努力を2〜3年意識して、この場合の2〜3年というのは中高生の間の2〜3年ということです、意識することでそういうヒントを捕まえることができれば、20代の前半は(下積み時代を)堪えられるじゃないのかって思っています。
ただ、1つだけ気をつけていただきたいのは、「なんでも堪えていればいいのか?」ということではなく、第三者・他人・社会に対して、「私は僕はという意思表示」ができるような言葉遣い・表現の仕方のことで、単なるテクニックではなく「他人に伝える」ためのテクニックを身につける必要があります。
Gのレコンギスタラジオ
まず、ゲーム制作に話を置き換えますが、ゲームを作ってもいきなり評価されるゲームを作ったり、売れるゲームを作るのはかなり難しいです。そもそもゲームを完成させるには「我慢する」「継続する」「忍耐力」「飽きずにコツコツやる」といったことが大切となります。
ゲームを作って世の中に発表したことがある人ならご存知ですが、よほど恵まれた人でない限り、最初は全くダウンロードもされずひっそりと消えていくゲームとなります。
ただそれは多くの人が通過している道であり、今活躍している方も売れない時代があったかもしれません。ですので『飽きずにコツコツやる』というのは私の解釈としてはゲーム制作者として何らかの実績を残したいと考えているのであれば、年単位の時間を費やす必要があると考えています。
そこでその継続力を支えるのが『自分に合っているものを見つける』ということです。貴重な人生の年単位の時間を費やすのに見合った「自分が人生をかける価値があるもの」、ゲームの場合は例えば特定のゲームジャンルなどを時間をかけて見つけることが大切という話だあると、私は解釈しました。
まとめ
最後に富野由悠季監督の創作に対する意識から学べることをまとめます。
- No.1を目指す(くらいの気持ちで取り組む)ことでモチベーションを保つ
- 恵まれない環境でも、それを変えていくくらいの気持ちで取り組む
- 飽きずにコツコツ続ける。完成して世の中に出せないと良くも悪くも評価がもらえない
- 継続力を支えるのは「自分に合っているもの」を見つけること