「恐怖の哲学 ホラーで人間を読む」に学ぶホラーの作り方

「恐怖の哲学 ホラーで人間を読む」という本を読んだのですが、ホラーゲームを作るのに役立ちそうな知識が詰まっていたので、個人的にまとめてみました

なお、私はホラーにそれほど詳しくないので、そのあたりはご了承いただければと思います。

また独自の解釈を入れている部分もありますので、興味のある方はこの本を実際に読んでみることをおすすめします。

1. 恐怖の「3つ」の要素

恐怖はおおよそ3つの要素からできている。

1. 自分に害をなす可能性をもつ対象を認知すること

2. いわゆる恐怖感、怖さを感じているときのあの感じ

3. 危害低減行動を促すシグナル

引用:第1章 恐怖の原型としての「アラコワイキャー体験」p23

恐怖を生み出す体験を作り出すには、3つの要素が必要としています。

  1. 怖いと思う対象を認知すること(怖いものを怖いと認識できる)
  2. それが怖いものであることを実感する(恐怖感がどんどん高まる)
  3. 怖いものに対して思わず(怖さを減らそうとする)具体的なリアクションをとってしまう

例えば、①ひと目見て「怖いもの」と認識できなければ、それは恐怖の対象にはなりにくく、②見た目は怖いけど、怖いと思わなければ恐怖の対象ではなく、③怖いけれどリアクションが淡白な場合は、あまり怖さを感じていない(ように感じさせる)可能性があります。

ということで、怖さを作り出すときに、これら3つの要素を満たしているかどうかをチェックすることで、それが本当に怖いのかどうかを検証する指針になるのでは……と思いました。

2. 怖くないものを恐怖と錯覚させる方法

恐怖の認知には「志向性」がある

哲学用語を無理やり使うなら、恐怖は志向性をもつ、ということになる。恐怖には向かう先がある、と言ってもよいし、恐怖はつねに何かについての恐怖だと言ってもよい。

(中略)

志向性をもつ、ということは間違いがありうるということでもある。

引用:第1章 恐怖の原型としての「アラコワイキャー体験」p30, p32

「志向性」というのは、人の意識には対象が存在する、ということです。そして「恐怖」というやや抽象的な対象にはその感情を生み出す複数の背景が存在するため、本当は怖くないものに対しても「恐怖」を持つことがある……としています。

具体的には、

  • 「小さな木」「カカシ」「人形」などを人と勘違いする
  • 「鏡に映った自分」を幽霊と誤認する
  • 「古い家のキィキィと軋む音」を、悲鳴や叫び声と聞き間違える

こういった「怖いものと勘違いさせる」系の演出は、驚かせるためのフェイク・前フリとして活用できるメリットがあるのではないか、と思いました。

対象を認知できない映像を見せて怖さを感じさせる方法

『エクソシスト』が鳴り物入りで封切られたとき、私は中学生だった。アメリカでは観ていたおばあさんがショック死したとか、そういう噂に十分さらされてから、観客は観に行くわけだ。そうすると、怖さ刺激に対して注意が鋭敏になっている。あるいは注意を研ぎ澄まそうとする。これがホラーを観るための「構え」になる。そうすると、ちょっとした刺激で怖がる人が出てくる。

私が観に行ったとき、このような体験があった。画面が切り替わった際に、母親役のエレン・バーステインのスカーフをかぶった後頭部が大写しになった。このショットで、会場のあちこちから悲鳴があがった。突然、映像が切り替わるので、一瞬何が写っているのかわからなくなる。観客はそれを、ホラー映画というごっこ遊びの規則に則って「何か恐ろしいもの」と見たわけだ。

引用:第6章 なぜわれわれは存在しないとわかっているものを怖がることができるのか? p281

うまく段取りができれば、実際には怖くないのに、ホラー映画の文法上「間違って怖く感じてしまう」ということを演出できる、ということです

  1. 事前に「怖いものが出るぞ」という期待感を観客に植え付ける
  2. 何かよくわからない映像を突如見せる

という手順を踏むことで、怖くないものを怖く見せる…、というフェイクを作ることができそうです。

何だかよくわからない映像」は、例のように「不自然なクローズアップ」や「ピントのずれた(ぼやけた)映像」など、対象をうまくごまかす色々な映像方法がありそうです。

3. 恐怖が引き起こす「6つ」の行動

人が恐怖を感じたときの行動として、「6つ」のパターンがあるとしています。

No種別リアクション理由
1凍結動きがピタっと止まる状況・対象を注意深く観察するため
2逃避対象から離れるように
逃げ出す
脅威から距離を取ることで
安全を確保するため
3攻撃対象に危害を加える敵を無力化する、
または敵を逃走させるため
4服従/宥め対価を支払って
見逃してもらう
敵に従うことで相手からの攻撃を抑制する。
または敵を落ち着かせて攻撃性を減らす
(危害を加えないことを約束する、など)
5おびえ死んだふりをする捕食者は獲物の動きに反応して
危害を加えることが多いため、
獲物が動かなくなると興味を失う。
あるいは死んだと思うと油断するので、
逃げるチャンスが生まれる
6気絶気を失う。
腰を抜かして
動けなくなる
自分が無力であるとアピールすることで、
相手は攻撃を止める可能性がある
恐怖が引き起こす「6つ」の行動

恐怖演出に対して、登場人物がどのようにリアクションするか、これらのパターンを意識して組み合わせることで、恐怖のリアクションがワンパターンになるのを避けられそうです。

性格リアクション
人に威張っていて性格が悪い自分だけが助かる方法で即座に逃走する (2. 逃避)
味方を差し出してでも自分が助かろうとする(4. 服従)
怖いものが死ぬほど苦手腰が抜けて動かなくなる (5. おびえ)
真っ先に気絶する(6. 気絶)
冷静で頭の良いキャラ動きを止めて状況を観察する。敵に見つからないようにする。
安全な逃げ場を探す(1. 凍結)
血の気が多いキャラその場にある武器で恐怖の対象を攻撃する(3. 攻撃)
キャラクターごとのリアクション例

もちろん、キャラは1つのリアクションだけするのではなく、複数のパターンを組み合わせても良いです。

4. 「恐怖の表情」が怖さを伝えるもっとも効果的な演出

ところで、登場人物が怖がっていることを観客に知らせるもう1つの方法があり、それは恐怖の最後の特徴と関係している。つまり、登場人物が恐怖の表情を浮かべることだ。実はこれが最も雄弁なのである

(中略)

恐怖の場合、その特徴はさらに顕著だ。眉を上げ、目を見開くと同時に眉間を寄せ、口を横にひきつらせる、あるいは歪める。要するに、ムンクの「叫び」の顔を真似する

引用:第1章 恐怖の原型としての「アラコワイキャー体験」p70, p71

これを読んだときに真っ先に思いついたのが「クロックタワー」でシザーマンが初登場したときの演出です。

「クロックタワー」任天堂 Virtual Console のページより引用

浴室のカーテンから怪物である「シザーマン」が登場するシーンなのですが、ここで最も怖いのが「左下」に表示される主人公「ジェニファー」のリアクションです。

カーテンを開くと中には友人の「ローザ」が殺害され吊るされている死体があるのですが、浴槽の中から大きなハサミが突如出現し、シザーマンが姿を見せます。それに対しジェニファーは、恐怖の表情を浮かべ目のアップになる演出が入るのですが、正直なところシザーマンの登場よりもそのジェニファーのリアクションの方が怖い、との評判です。

目のアップはホラーでは定番の演出なので、それをうまく使っている良い例ですね。また恐怖の表情を見せられるのが一番怖い、ということを改めて実感しました。

5. ホラーをギャグにしない方法

「恐怖」を感じさせるには事前の準備が必要

ホラーを成立させるためには恐怖の対象を見せる、「リアクション」で恐怖の表情を見せる、というのが大切なのですが、やりすぎると「ギャグ」になります。

先程のクロックタワーの恐怖シーンの画像も、クロックタワーを遊んだことがない人には「変な画像=ギャグ」に見えたかもしれません

クロックタワーを遊んだ人であれば、このシーンに入る前に

  1. この不気味な館では何か奇妙なことが行われていた(気持ち悪い痕跡がいくつかある)
  2. そして、どうも異形の生物がこの屋敷にいて、やばいことをしている伏線がチラチラ見つかる
  3. 浴室に入ると、シャワーが使われていたのか湯気があり視界が悪く、浴槽のカーテンを開くと、そこには殺されたローザが……

といった、怖がらせるための綿密な伏線が用意されており、それらがシザーマンの登場で恐怖の頂点に達するように計算されて構成されています。

なので、それらの前提を理解していない状態で、怖いシーンを見せられても「怖い」とは思いにくいです。

ということで、怖さを爆発させるシーンのインパクトも重要ですが、その恐怖シーンを見せる前の段取りもとても重要なのではないかと思っています。

お笑いでも、面白いコントをする方は、オチに持っていくまでの状況説明がわかりやすいです。それと同じことがホラーにも言えるのかもしれません。

また、リアクションが大げさすぎる場合も「怖い」というよりも「ギャグ」になってしまいます

不適切な対象に不適切に強い恐怖を抱く人物は、はたから見るとむしろ滑稽になってしまうからかもしれない。

(中略)

登場人物が観客以上に怖がっていては、しらけるばかりだ

引用:第3章 これが恐怖のモデルだ! p131

なので、リアクションをうまくコントロールすることが「怖い」ホラーを作るためには必要なのかもしれません。

「恐怖」のリアクションをあえてしない(隠す)ことで「恐怖」を演出する

怖いものが出る」→「悲鳴を上げる」というパターン繰り返しだとだんだん見ている方が慣れて、怖くなくなります

そこで、あえて「怖がらない」キャラを登場させる方法があります。

例えば、建物の外には怪物が大量に徘徊しているのですが、登場人物にはそれを知らせず、周りの絶望的な状況を観客にのみ説明します。

「もし登場人物がこれを知ったらどうなるのだろう……?」

と想像させることで「恐怖」を感じさせる方法となるようです。

どちらかといえば、サスペンス的な手法と思いますが、場合によってはこの方法も有効となりそうです。

登場人物は無邪気で怖がらず、観客が怖いと想像することをさせる

赤ん坊が暖炉の中に手を突っ込もうになっているのを見たとき、われわれは驚愕と恐怖を感じる

(中略)

正確には、赤ん坊が暖炉に対して感じるべき恐れを代わりに感じている、と言うのが良いだろう

引用:第6章 なぜわれわれは存在しないとわかっているものを怖がることができるのか? p289

観客に「ここは製作者が怖がらせようとしているのだな」と思われてしまうと、興ざめしてしまいます。それを巧妙に隠す手法の1つとして、無邪気に怖いこと(観客がやってほしくないこと)をさせる、という方法があります。

これもサスペンス的な手法で「その行動の結果がある程度見えている」からこその怖さではないかと思います。

6. ホラー作品の落とし所

うずまき (伊藤潤二)』は、最初はホラーとして始まるが、次第にホラーとは呼べない何かになっていく。街全体がうずまきに支配されることによって、舞台じたいがノーマルな世界ではなくなってしまうからだ。

(中略)

『うずまき』の後半は怪奇譚であるがホラーではない。

引用:第4章 まずは「ホラー」を定義しちゃおう p168

ホラー作品は最初から最後までホラー要素だけで突き進むのは難しいのかな、と個人的には思っています。

引用のとおり、うずまきは前半はホラー、後半は不思議な話、というように少し変化を加えています。

他にもミステリーにする、ドキュメンタリーにする、主人公の成長物語にする、などなど別ジャンルに切り替えることで、ホラーとして良い着地点を見つけられそうな気がしています。(ライトなホラー好きとしては)

7. 怖い怪物を作る方法

「気持ち悪い」を入れることで恐怖を増大させる

怪物はどこか「気持ち悪く」なければならない。『エイリアン』の怪物は

(中略)

おぞましく、嫌悪すべきものにするために、この怪物はベトベトいることになっている。怪物はつねに透明な腐食性の粘液を滴らせている。恐ろしいというだけではなく、それ以前にとにかく近づきたくない、触りたくないような造形にする必要がある

引用:第4章 まずは「ホラー」を定義しちゃおう p174

エイリアンでの怪物は「凶暴」で「強く」「気持ち悪い」生物として描かれています。

エイリアン

よく闇を背負ったアンチヒーローとして「凶悪」な見た目で「凶暴」な性格なキャラクターが描かれることがあります。それでもカッコいいヒーローとなる条件は「生理的嫌悪感」が排除されているのではないのかな……と個人的には考えています。

エイリアンはその凶暴さに加えて「気持ち悪さ」が含まれていることで、凶悪な敵としてのイメージが成立しているのではないかと思います。

生理的嫌悪感とは何か……ですが、おおよそ以下のものでしょうか

  • 不潔、腐臭・悪臭がする、汚物、粘液を滴らせている、病原菌を持っていそう
  • 異常な性癖を持っている(ペドフィリア、カニバリズムなど)
  • 下品、マナーが悪い

怖い怪物をデザインする場合には、意図的にこれらの嫌悪感をもたらす要素を取り入れた方が良いのかもしれません

「意図不明」なヤツがもっともコワイ

他者の心の理解とは、他者を自分か多数派と同様な「ノーマル」な者として理解することを含んでいる。

そうすると、こうした「他者の心の理解」の通用しない存在は、われわれにとって潜在的な脅威になる

(中略)

『エイリアン』に描かれた出来事より以前の話を描いた続編である『プロメテウス』には、われわれ人間を自分に似せて創造しておきながら、なぜか人類を滅亡させようとする謎の宇宙人が登場する。こいつらが、実に何を考えているのかわからない。なぜわれわれを創ったのかも、消し去ろうとしたのかも最後までわからない。おまけになんだか凶暴だ

引用:第5章 なぜわれわれはかくも多彩なものを怖がることができるのか? p241

人は理解できないものに対して恐怖を覚えます。例えば意見の異なる相手に対して攻撃的になるのも「理解できない」という恐怖感から引き起こされるものなのかもしれません。

ホラーの場合も「なぜ自分に対して危害を加えるのかわからない」ということが恐怖を引き起こします。そしてストーリーが進むと、その場所で過去に起きた出来事が怪物の動機であることが判明し、少しずつ怖さがなくなる…気がしています(怖さに慣れる、というのもありそうですが)

  • いきなり激怒したり泣き出したり、高笑いを始めるなど、感情の流れが読めない
  • 目に入った人間を理由なく殺しまくる殺戮マシーン

ミステリー作品では、たいていの場合は「犯人に被害者を殺す動機がある」という復讐劇であるパターンが多いですが、とにかく怖さを重視する作品では「殺すことを目的とする(特殊な性的趣向など)」という、動機を理解・共感できないものすることがよくある気がします。

特徴的な「パーツ」と「音」を作る

モンスターに特徴的なパーツとそれに付随する音をつけることで、部分的にそれを見せるだけでも怖さが連想できるようになる(例:エルム街の悪夢でバスタブのお湯の中からフレディの右手が出てくる)

作品モンスター特徴的なパーツ特徴的な音
悪魔のいけにえレザーフェイスチェーンソー「チュィィィィン」
エルム街の悪夢フレディ・クルーガー右手の金属製の鋭い爪「キーキー」
(爪でガラスをこする)
クロックタワーシザーマン大きなハサミ「チャキィィン」

病原体の恐怖を描くには

現代人にとって最も切実な恐怖の対象となる「怪物」は、病原体だろう。

(中略)

ホラーにするには病原体の恐怖を可視化する必要がある。手っ取り早いのは、病原体に感染した人が怪物化することだ。

引用:第5章 なぜわれわれはかくも多彩なものを怖がることができるのか? p197

病原体は身近な恐怖ですが、目に見えないと怖さを認識しづらいです。(最近はコロナウィルスの影響で理解されやすいかもしれません)

フィクションとして恐怖を可視化するには「怪物化」するのが最も楽な方法となります。例えばウィルス感染による「ゾンビ化」です。

8. 「死」よりも「痛み」や「苦しみ」の方が怖い

「痛み」や「苦しみ」を表現する

死を恐れるのは実はとても難しく、抽象的な表象を駆使したかなりの知的努力を要することなのだ。多くの人々が恐れているのは、死ではなく、死にまつわるさまざまな怖いことである。死に至る過程での苦しみや苦しみ、もしかしたら地獄に落ちてそこで味わうかもしれない未来永劫続く苦しみ、残されて困窮した家族の経験するだろう苦しさ、そういったものを想像して恐れている。これらを「死の恐怖」と間違って呼んでいるだけだ

引用:第5章 なぜわれわれはかくも多彩なものを怖がることができるのか? p203

人は死という抽象的な概念よりも、具体的な「痛み」「苦しみ」を恐怖としてイメージしやすい、とのことです。

ではエンタメとしてホラーを描く場合にどうすればよいのかというと、登場人物が傷ついたときにそれを痛がる表現をリアルに表現することかな…と思っています。

引用:バイオハザード (カプコン)

バイオハザードがなぜ怖いのかな…ということを考えてみると、主人公がゾンビにガブガブと噛まれたり、ダメージが蓄積すると足を引きずったりと、「痛み」がリアルに表現されていることかな、と思いました。「痛みで叫ぶ」「泣き叫ぶ」や「激しい流血」「嘔吐」などの表現も「痛み」の表現の一種なのかもしれません。

痛がる表現をリアルにしすぎると「痛さがつらくて見てられない」、あまりにも残虐表現を強烈(人体切断や臓器を露出させるなど)にする「グロすぎる」となってしまうので加減が必要ですが、怖さの1つのベクトルとして、理解しておくのは良いかもしれません。

「自分を失う」苦しみの怖さを描く

『エクソシスト』で印象的な場面は、すっかり悪魔と化してしまったかに見える少女が、皮膚に「助けて」という形の発疹を浮かびあがらせることで、内部では悪魔による乗っ取りに少女が抵抗していることが示されている

引用:第5章 なぜわれわれはかくも多彩なものを怖がることができるのか? p245

怖さを表現する方法として、「自分を失う」苦しさを描く方法があります。

これを読んで思い出したのが、漫画「幽遊白書」の巻原定男です。このキャラは相手を食べることで能力を吸収する、という能力を持っているのですが、戸愚呂兄を食べたときには吸収するどころか人格を乗っ取られてしまいました。

以下、そのシーンのセリフです

巻原が戸愚呂兄を食べるシーンの回想

戸愚呂兄「くくくく…。こいつにとって予想外だったのは、オレがゴキブリ以上にしぶといってことだな」

戸愚呂兄「自分が乗っ取られていることに気づいてからの、こいつとの “共同生活” は楽しかったぜ」

戸愚呂兄「こいつの恐怖が…狂っていく様子が手にとるように、わかるのさ」

引用:幽遊白書 第137〜138話 (アニメは84話)

当時、アニメで見たとき、巻原が自分を失うことで苦しんでいる様子がリアルに描かれていて、なんとも言えない恐怖を感じたことを覚えています。(漫画だと数コマなので、アニメ版の方が怖いかもしれません)

9. 「視野を狭く」することでシリアルキラーの視点を表現できる

ホラーの怪物は、なぜかマスクを付けていたり、物陰からこっそり覗き見をしていたりと「視野が狭い」ことが多いです。そこで視野を狭くすると犯人の視点のように見せることができます。

例えば以下のような画像があります

これに対して、視野を目の形にして狭くしてみました。

最初の画像よりも犯人(異常者)の視点っぽくなったような気がします。

他にも「覗き見 猫」でGoogle検索すると、かわいいはずの猫が怖いものに見えてきます。

覗き見 猫」でGoogle検索

物陰からチラリと覗く構図はホラーの定番なので、怖さを演出するときに使えそうですね

10. 「密室」の絶望感が怖さを作る

ホラーでは、絶望的状況の典型は逃げ道のなさとして表象される。『悪魔のいけにえ』では、チェンソーをもって迫ってくるレザーフェイス自体も、そりゃ十分に怖いのだが、私を飯田橋のお堀端で嘔吐させるまでに怖がらせたのは、最後まで生き残った学生が何度逃げても引き戻されるところだ。

引用:第5章 なぜわれわれはかくも多彩なものを怖がることができるのか? p237

ホラーの舞台設定として重要なのは、「密室」という外部から隔離された閉鎖空間を作り出す…、ということにあるとしています。

これは脚本術として有名な「SAVE THE CATの法則」にも「家のなかのモンスター」というジャンルを作るための基本ルールとして定義されています。

このジャンルには、2つの構成要素がある。1つはモンスター、もう1つは家だ。さらにモンスターを殺したがっている人間を加えると、どこの国でも誰にでも通じる話、言い換えれば<原始人にだってわかる>ストーリーになる。

(中略)

このジャンルの根底にあるのは「危ない!……奴に食われるな!」という、誰にでもわかる単純で原始的なルールなのである。

(中略)

基本ルールは、いたって単純だ。まず<家>は逃げ場のない空間であること。たとえば海岸沿いの町、宇宙船のなか、恐竜の走り回る未来のディズニーランド、家庭など。そこで犯罪が起き──たいていの原因は人間の貪欲さ(金銭欲や物欲など)にある──その結果モンスターが生まれる。モンスターは罪を犯した奴に復讐しようとし、罪に気づいた人間は大目に見る。

(中略)

悪い例を見てみよう。ジェフ・ダニエルズとジョン・グッドマン主演の『アラクノフォビア』(90)だ。モンスターはちっこい毒グモで、正直大して怖くない。だって踏んじゃえば死んじゃうんだから。それに<家>もない! アラクノフォビアの住人は、いやになったら<おあいそ!>と言って、グレイハウンドバスに乗り町を出ればいいのだ

引用:SAVE THE CATの法則 p56

ホラーからは離れますが、SAVE THE CATの法則について、以下の記事でおすすめポイントを書いています。

シナリオの書き方を学ぶのにオススメな本

『悪魔のいけにえ』の怖いポイントとしては、絶望的な閉鎖空間が描かれているところです。

  • 鋼鉄製の引き戸が突如開き、凄まじい力で中に引きずり込む。その手際がとてもスピーディで「あ…、これ、逃げるの無理だ」と思わせられる
  • 閉じ込められた部屋は密室。唯一の扉も鋼鉄製で壊したり開くことはできない。部屋内にある拷問器具がこれからの惨劇を想像させる
  • なんとかして、密室から逃げ出したもののレザーフェイスの家族に捕まり、連れ戻される。敵には仲間がいて逃げることが絶望的であることを思い知らされる

この本で扱われたホラー作品

この本で扱われたホラー作品をいくつか抜粋しておきます

  • 悪魔のはらわた
  • 悪魔のいけにえ
  • サイコ
  • 13日の金曜日
  • 郵政からの物体X
  • 幽霊の辻
  • スクリーム
  • ジョーズ
  • シャイニング
  • 黒い家
  • エイリアン・プロメテウス
  • 四谷怪談
  • オーメン
  • らせん
  • リング
  • ゾンビ(ドーン・オブ・ザ・デッド)
  • ザ・フライ
  • イベント・ホライゾン
  • フランケンシュタイン
  • うずまき(伊藤潤二)
  • キングコング(1933)
  • ブロブ/宇宙からの不明物体
  • バイオハザード
  • 28日後
  • ワールドウォーZ
  • ファッションモデル(伊藤潤二)
  • エルム街の悪夢
  • ブレア・ウィッチ・プロジェクト
  • ハロウィン
  • 半魚人(楳図かずお)
  • キャリー
  • フェノミナ
  • シックスセンス
  • アザーズ
  • キャット・ピープル
  • 羊たちの沈黙
  • ローズマリーの赤ちゃん
  • ノイズ
  • ザ・フライ2
  • ホワイト・ゾンビ

おすすめホラームービー10選

この本の著者によるおすすめのホラームービーは以下の10本となるようです

  1. 悪魔のいけにえ
  2. スクリーム
  3. ゾンビ(ドーン・オブ・ザ・デッド)
  4. ミスト
  5. 死霊のはらわたII
  6. ブレア・ウィッチ・プロジェクト
  7. SF/ボディ・スナッチャー
  8. シャイニング
  9. ザ・フライ
  10. ウィッカーマン