今回は「Shovel Knight and Nailing Nostalgia (ショベルナイトと完璧なノスタルジア)」という動画の内容を個人的にまとめた記事となります。
2Dドット絵のレトロ風(ファミコン・スーパーファミコン風)のゲームを作るときに、「単に懐かしいだけではない魅力」を感じられるものにするためにはどうすればいいのか…、ということが理解できると思います。
目次
昔懐かしのデザインを成功させるための4つの原則
レトロ風ゲームを成功させる原則は以下の4つです。
- 「複数のゲーム」を元ネタにすること
- 元ネタの「良いところ」を使うこと
- 昔のゲームの「ダメな部分」を現代的にすることを恐れない
- 「レトロな雰囲気」を残しつつも「美しい表現」にすること
例えば、Shovel Knight は 8ビット時代のゲームを彷彿とさせるレトロなアクションゲームです。
特徴として、グラフィックやサウンド、ゲームシステムに「複数」のレトロゲームへのオマージュがあります。
- ロックマンのような体型や名前を持った敵が登場する
- スーパーマリオブラザーズ3 のようなマップ移動画面が存在し、敵とのシンボルエンカウントも発生する
- 忍者龍剣伝の剣の切り払いの動きで攻撃するシャベル
- わんぱくダック夢冒険を連想させる下突き攻撃
- 特殊技は悪魔城ドラキュラの斧のような軌道を描く
- 人と会話したりレベルアップするための施設の街はリンクの冒険の街と似ている
何か1つのゲームだけではなく「ファミコン作品全体」からアイデアを借りているのがポイントです。というのも、1つのゲームに固執してアイデアを借用すると「ある作品に似ている」「似ているが再現度が足りていない」といったパクリに対する批判が発生しやすいためです。
そこで「複数」のゲームのアイデアを組み合わせることで、それらの批判をある程度回避することができます。また複数のゲームアイデアを組み合わせることは、独自のシステムやゲームプレイが生まれたり、懐かしいながらも目新しい印象を与えることもできます。
単に昔のゲームを模倣するのは危険です。というのも昔のゲームは、今の感覚では理不尽な高難易度や遊びづらさ、 Insta-death (即死ゲーム) さえも美化されています。それをそのまま今の時代で作っても、受け入れられにくい作品となってしまいます。
- 「3分間でゲームオーバー」にしなければならないアーケードスタイルの難易度設計
- やたらと多い即死要素
- 厳しい死亡ペナルティ。 Permadeath (恒久的な死) やステージの最初からのやり直し、Lives (残機) 制など
- 理不尽な敵の動き(回避が困難な攻撃など)
- ジャンプ中に空中制御できない
- ノックバックで谷底に落下させられる
- 不便で使いづらいUI
- わかりにくい隠し要素や攻略方法
これらの極端に難しい要素は攻略したときに高い達成感を得られます。ですが、こういった理不尽な要素は拒絶される可能性があるので、注意して取り入れることが必要です。
ただ、過去の名作を名作たらしめている部分は、積極的に模倣すべきです。
- 「シンプルなシステム」にゲームプレイを集中させる
- 「想像力豊かな」ステージデザイン
- ぎこちないゆえに「わかりやすい」キャラの動き
- 「明確に分割」されて「一貫性」のあるステージ構成
- ステージ内に巧みに用意された「隠し要素」
- 「繰り返し挑みたくなる」手応えのあるボス戦
- 文章によるチュートリアルが存在せず、ゲームシステムを「ステージデザインで学ばせる」方式
- 「瞬時にゲームを起動」してすぐに遊べる
たとえレトロ風のゲームであっても、現代的なゲームで優れたシステム、応用できそうな部分があれば積極的に取り入れます。例えばShovel Knight では Insta-death (即死ゲーム) の要素を取り入れつつも、現代的なゲームシステムを取り入れています。
レトロなシステム | → | 改良 |
---|---|---|
死んだらお金を失う (死の緊張感が生まれるが シビアな難易度となる) | → | 死亡時にその場にお金をばらまき、 その場所に戻れれば回収できるようにした (DARK SOULS から借用したシステム) |
死んだらチェックポイント へ戻される | → | チェックポイントを破壊可能にし、 破壊すると大金を得られるようにした |
グラフィックはレトロな雰囲気は残しつつも、当時のゲームハードの制約は気にせず豪華な見た目にする。MIGHTY GUNVOLT BURSTのように過去のハードを忠実に再現する必要はありません。
- オブジェクト数やサイズは無制限とする
- 背景の多重スクロールは惜しみなく使用する
- 色数も惜しみなく使う
- サウンドも音源やチャンネル数の制約はなし
Hyper Light Drifter は スーパーファミコン風のゲームデザインながらも、色数は多く美しいアートワークとなっており、IGFを受賞するほど絶賛されました。
Hyper Light Drifter での 4つの原則を取り入れた例
Hyper Light Drifter はこの原則をうまく取り入れることで成功しました。(IGFのビジュアルアートとサウンド・オーディオ賞(2016年)、Apple iPadベストゲーム(2019年))
原則 | 表現方法 |
---|---|
1. 複数のゲームを 元ネタにすること | 「ゼルダの伝説 神々のトライフォース」 「ロックマンゼロ」「ジブリ作品」 「新世紀エヴァンゲリオン」「Diablo」「ダークソウル」 など様々な作品を元ネタにしている |
2. 元ネタの「良いところ」 を使うこと | ゼルダの伝説 をベースにした操作方法や キャラクターの成長や謎解きや探索要素。 高難易度アクション。 隠しアイテムでのキャラクターの強化 |
3. ダメな部分を現代的に することを恐れない | ダッシュを駆使したスピード感ある テンポ良いアクション。 レトロ風ながらも現代的なサウンドトラック |
4. レトロな雰囲気を 残しつつも、 美しい表現を取り入れる | 16bit風のドット絵だが、 色使いが独特で幻想的かつ退廃的。 オブジェクトも大量に配置されている |
しかし、Hyper Light Drifter と異なり、 Mighty No.9 はロックマンの悪い点(難易度はそのままで、理不尽な即死や残機制限、ひどい声優の演技など)をそのまま真似てしまっています。さらにロックマンらしさのないアートワークは原作の雰囲気を再現できず、中途半端なものとなってしまいました。
それに対して、Shovel Knight は、開発者が元WayForward (Shantae: Half-Genie Heroなど優れた2Dアクションを開発)所属で2Dアクションの制作の長い経験があり、ステージデザインは一流で、はやりネタやリファレンスに頼ることなく独自のユーモアセンスが光る作品です。何よりも懐かしさを正しく利用しています。